2009/12/04

ベストセラーって何?

2009年 年間ベストセラー(トーハン調べ)が発表された。それによると、次のとおりだ。 

1「1Q84 (1)」「1Q84 (2)」村上春樹著 新潮社刊 各1,890円

2「読めそうで読めない間違いやすい漢字 誤読の定番から漢検1級クラスま 」出口宗和著 二見書房刊 500円

3「ドラゴンクエスト 星空の守り人 大冒険プレイヤーズガイド」Vジャンプ編集部著 集英社刊 1,200円

4「 新・人間革命(20)」池田大作著 聖教新聞社刊 1,300円

5「日本人の知らない日本語」 蛇蔵 海野凪子著 メディアファクトリー刊 924円

6「バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット」 山本千尋著 幻冬舎刊 1,575円

7「私服だらけの 中居正広 増刊号 〜輝いて〜」 扶桑社刊 370円

8「告白」湊かなえ著 双葉社刊 1,470円

9「脳にいいことだけをやりなさい!  頭のいい人は『脳の使い方』がうまい!」 マーシー・シャイモフ著、茂木健一郎訳  三笠書房刊 1,470円

10「体温を上げると健康になる!」 齋藤真嗣著 サンマーク出版刊 1,470円

ベストセラーって何?

これを見てわかるのは、まともな本が大量に売れるとは限らないということのような気がする。反対に村上春樹を含めて宗教的なものやゲームもの、雑学・健康ものがよく売れていることがわかる。

もちろん数字に示される物質力は一つの現在を表す指標であることは間違いない。とすれば、現在の文化の質がいかに衰弱しているかが伝わってくるということか。

それにしても、ずいぶん寒い日である。

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2009/08/29

世界は分けてもわからない

世界は分けてもわからない
福岡伸一著「世界は分けてもわからない」(講談社現代新書、819円)。

「生物と無生物のあいだ」でユニークかつ文学的美しさに満ちた生命論を展開した福岡ハカセ。

今度は膵臓の中にある世界最小の島・ランゲルハンス島からベネチアの水路、アメリカの巨大美術館を経巡り、インクラビリ=治すすべのない人間の病の物語を綴る。

どこから読んでも印象的な考察があふれている。部分と全体という区分けの難しさ。世界は分割しなければわからないが、分割してもわからないとのこと。

ガン細胞とES細胞の類似性、臓器移植の持つ矛盾、ランゲルハンス島の海が作り出す消化酵素のメカニズムや毒と薬など、まさしくマージナルでスリリングな言説に圧倒される。

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2009/08/22

遅ればせに直木賞「鷺と雪」を読む

鷺と雪

さて、第141回の直木賞をようやく獲った北村薫著「鷺と雪」(文藝春秋刊、本体価格1400円)を読んだ。候補作になった時に、買ったのであるが、万城目学著「プリンセス・トヨトミ」でいいじゃない、美人の西川美和さんの「きのうの神さま」も悪くないし、北村さんはさすがに受賞するはずはないと放っておいた。見事にはずれた。世の中そういうもんである、だいたいは。

それにしても、北村薫さんには「スキップ」とか「ターン」とか面白い作品はいっぱいあるし、それなのに、今更受賞というのも、素晴らしいというより、びっくり。

で、「鷺と雪」。昭和前期のレトロ・ロマンである。上流階級のお嬢さん、花村英子とお抱え運転手のベッキーさんこと別宮みつ子コンビによる少女探偵団(というにはいささか年を食いすぎているが)の活躍を描いた連作作品である。帝都に起こる不可思議な事態を次々と明らかにしていくのだが、最後の表題作「鷺と雪」は昭和11年2月の「二・二六事件」へとつながっていく。明るさは滅びの姿であろうか、と太宰治なら言うかな。

この上流階級から見た「戦前」の水圧の増大への測定はどうなんだろうか。いささか物足りない。

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2009/08/06

「SECT6+大正闘争資料集」を読む

セクト
神津陽編著「SECT6+大正闘争資料集<増補決定版>」(JCA出版、3000円)。

「SECT6」(SECT NO.6とも呼ばれた)は60年安保闘争後に出現した幻の学生運動組織である。前衛主義に対して自立大衆主義、あるいは反前衛主義を主張し、どちらかと言えば、共産主義と言うよりもアナーキーな香りの漂う組織(しかも反組織)である。

その幻の組織の言説集を集め、さらに、その一部が積極的に取り組んだ九州・筑豊での「大正炭鉱闘争」の記録集が本書だ。

この2つの運動の周縁には、大衆の自立と反前衛コミュニケーションを提示した吉本隆明や、「東京へ行くな、ふるさとをつくれ」とアジテーションを発した谷川雁や森崎和枝らの単独思想者を思い浮かべることもできる。

最初資料集は1973年に発刊されているが、今回は「SECT6」のリーダーである福地茂樹議長へのインタビューを詳しくしている。福地氏がラテン語読みで「セクト セックス」からつけたとか、「名前は記号だから、どうでもよい」と言っているのが、いかにも脱力的である。機関誌の創刊号の表紙写真はマイルス・デイビスというのも面白い。

確かに、この内発的な発想力を見れば、その後の「全共闘」の原点だというのも、むべなるかな、である。硬軟両様の自在さ。教えられるところ大である。

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2009/08/04

「ジャーナリズムの可能性」を読む

ジャーナリズム

原寿雄著「ジャーナリズムの可能性」(岩波新書、本体価格700円)。

著者は元共同通信社編集局長。「デスク日記」の伝説のライターでもある。

ネット時代を迎える中で、あらためて新聞ジャーナリズムの未来への期待を込めた渾身の一冊である。もちろん、内容的には部外者ならではの「甘い」というか現場の苦労とは無縁の空論を語っているところもないではないが、それでも総論・原則論としては鋭い。

「デジタル時代がこのまま進めば、人びとは自分の個人的な利害や趣味、関係する仕事に直接かかわる情報以外に関心をもたず、公共的な情報は不要視され、権力監視や社会正義の追求に不可欠なジャーナリズムは、滅びてしまいそうな情勢である。情報栄えてジャーナリズム滅び、ジャーナリズム滅びて民主主義滅ぶ--そうなってはならない、ジャーナリズムにはなお期待できる、というのが私の総括の結論である」

個人的な知り合いも幾人か登場しており、自省させられる点も多かった。

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「差別と日本人」を読む

「差別と日本人」を読む
野中広務&辛淑玉著「差別と日本人」(角川oneテーマ21、本体価格724円)

話題作を読む。

野中広務さんという老練な政治家の姿を知らされる。リベラルなのかそうでないのか、よくわからない。戦争が嫌いなことだけはよくわかった。

差別問題の厳しい世界を生き抜いてきたことはよくわかるが、それと実際の政治権力とはまた別のことがらに属するからだ。差別はあらゆる場所から解体しなければならない。

いずれにしろ麻生太郎という人物の品性に関しては下劣このうえないことだけは明らにされている。

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2009/08/03

村上春樹著「1Q84 BOOK2<7月-9月>(新潮社刊、本体価格1800円)。

ようやくまわってきた村上春樹の話題作の「下巻」を一気読みした。あいかわらず思わせぶりな物語であるが、ずいぶんわかりやすく進んでいく。それにしても、「下巻」と口走ってしまったものの、これじゃ続編ありに決まっているじゃないか、という代物である。当然、あと2巻、起承転結となる。どうしてか? そりゃあ、本作で「月が2つ」見えるのだし、「マザ」と「ドウタ」がセットなのだし、「パシヴァ」と「レシヴァ」が最強のコンビなのだから、対(ペア)で動くのは必然だからだ。

1Q84

そして、「天吾」と「青豆」もまた動かしがたい運命の2人なのだ。この2巻で「青豆」は死んでいくように仮構されているのであるが、しかし、それが実在か虚体か定かでないが、「青豆」は「天吾」と離れたまま死ぬことはありえないはずである。そうでなければおかしい。というのが私の直感である。

「1Q84」とは「書き換え」の物語である。リニアな形で世界は存在しているのではなく、無数の迷路の中の1つを選び取っている結果に対し、オルタナティブな潜勢力を定立しうる源基を求める「愛」の物語なのだ。崩れた愛の世界は回復され(癒され)ねばならない。

「リトル・ピープル」をオカルト的に解釈したい者はそうするがいいさ。現世に浸潤してくる「悪意」の通路と契機をイメージしてみるがいい。それに対して、「反リトル・ピープル」は常に同じ大いさで形成される。その「反リトル・ピープル」を通じて、現実という「物語」を「書き換え」ようとしているのだ。

おそらく村上春樹の中には、何かを「書き換え」たいという情念のようなものが渦巻いているのだろう。この場合、一応、「何か」としておくが、彼の中では、オンリー・イエスタデイだろう。

それにしても、満州もそうであったが、北海道の山の中の孤児院やら函館やら歌志内の郊外やら、さらには朝鮮人やらが登場人物の心の陰翳を示す装置として使われている。オウム真理教やら麻原彰晃やらも同様である。それらの事件を文学的に超克しているかどうか、未だ答えるには値しないだろう。

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2009/07/29

なぜ、北海道は-謎が謎呼ぶ不思議なミステリー

鷲田小彌太、井上美香著「なぜ、北海道はミステリー作家の宝庫なのか?」(亜璃西社、1680円)。

なぜ、北海道は

北海道にはミステリー作家が多い、と感じているとしたら、その実態はいかに。てなわけで、北海道ゆかりの作家・評論家たちが一堂に集められる。そして、作家の特徴と代表作の分析がコンパクトに行われ、それぞれ参考文献が示される。まことにハンディな本である。わかりやすい。

一応、北海道文学に関心は払ってきたものの、正直に言うと、エンタメ系は詳しくない。膨大なリストに圧倒された。古い作家の文章がずいぶん巧みなのにも驚かされた。既知であるが、函館の作家群像にもあらてめて感心した。

もちろん、これがミステリー作家なのか?という人もいないではないが、そんなことは小さいことだ。謎のない小説なんてないことだし。五木寛之や黒木瞳やお茶でおなじみの「八女」に「やつめ」とルビがあっても目くじらはたてるまい。

荒れた青春を送っているので、大学にはほとんど行ってないも同然なので、想像するだけなのだが、大学院のゼミあたりで指導教官と院生の間で本を作るとこんな感じになるのかな、と思った。「君、誰それの本を最低10冊読んで、10枚以内のリポートを書くように」「がんばります」みたいな演習を続けている感じだ。

松本清張を論じて曰く、<清張の人間「発掘」や「探索」熱は、彼が抱くステレオタイプの人間観や社会観を常に裏切り、乗り越えていった。いってみれば清張の作品からは、人間の本性に内在する犯罪や悪に対する、どんな力によっても押し留めることのできない、暗い情熱や快楽がおのずと伝わってくるのだ>(同書90頁)という言葉が本書をも撃っている。

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2009/07/26

村上春樹著「1Q84 BOOK1 <4月-6月>」

村上春樹著「1Q84 BOOK1<br />
 」

村上春樹著「1Q84 BOOK1<4月-6月>」。新潮社刊、1890円。

世評によれば、バカ売れしている作家の本をようやく借りることができて、手にした上巻を速攻で読んだ。

なんじゃこりゃ、なんだかわかりやすい。中国文革派の学者から世界最終革命を標榜する農業コミューン団体に長征(移行)した新島淳良らしき人物、オウム真理教らしきカルト宗教、エホバの証人らしきキリスト教宗派などが続々登場する。それから、必殺仕事人らしき女殺し屋、フカキョンや深津絵里ならぬ美少女ふかえり…。

「空気さなぎ」や「ビッグ・ブラザー」ならぬ「リトル・ピープル」といった悪意のメタファーはまだ顔を出したばかりだが、満州国の奥深くから羊に取り憑いて現れる亡霊魂を思い出す。印象としては、新左翼からオウム真理教へ至る世界に対する怨念のようなものとの対決のモチーフが感じられる。

「世の中の大半の人間は、小説の値打ちなんてほとんどわからん。しかし世の中の流れから取り残されたくないと思っている。だから賞を取って話題になった本があれば、買って読む」といった自虐風の言葉もなるほど。

ハッピーにはならないにしても、男の都合の良いように女性たちを配置して、時折、「いじる」感じはちょっと気になるのだが。

いずれにしても、ストーリーは天吾と青豆ともに快調に進み、早く下巻が回ってきてほしいし、読みたくなる。

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2009/07/20

広瀬隆著『資本主義崩壊の首謀者たち』(集英社新書、本体720円)

誰が何を仕組んできたのか!?
ソ連共産主義崩壊から20年、今度はアメリカ資本主義が瓦解!
欲望を全開にし、一握りの人間達が世界中の富を貪る!そんなシステムを容認してきた結果、世界経済は破綻した… (本の帯より)

 一九八九年にベルリンの壁が崩壊して、ソ連の共産主義は崩れ去った。そして二十年が経ち、今度はアメリカの資本主義が大崩壊を始めた。AIG、シティグループなどの実質的な国有化からもそのことは明らかであり、国家による一連の救済策は資本主義のルールではなく、社会主義、共産主義のルールに則っている。
 本書は、この重大な歴史認識を持つことから説き起こして、グローバリズム~金融腐敗という未曾有の大混乱を誰が招いたのか、ことの真相を明らかにし、さらに国民の資産を守るために、日本がとるべき新しい進路を指し示す。(本のカバーより)

資本主義崩壊の首謀者たち

著書紹介によると、広瀬隆(ひろせ・たかし)とは「一九四三年東京生まれ。作家。早稲田大学卒業。近年、アメリカ合衆国の権力構造を政財界の人脈調査から精力的に分析・研究。『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『アメリカの保守本流』(以上集英社新書)、『赤い楯』(集英社文庫)、『世界金融戦争』『世界石油戦争』(以上NHK出版)、『パンドラの箱の悪魔』(文春文庫)、『一本の鎖』(ダイヤモンド社)など著書多数。」とある。
 
ご存じ広瀬隆さんの現代世界論です。「ユダヤ陰謀論」とは一線を画すと言いつつ、やっぱり、そこが問題なのかな、と提起してくれます。
 
今回の著書よりも大作「赤い楯」を読むほうが、ずーっと面白かったように思います。本質論じゃなく、現状分析ですので、若干、くどくどしい語りになっているからでしょうか。
 
それにしても、資本主義国家の現在が資本主義のルールを守っておらず、資本主義という制度の崩壊を体現しているという指摘はまったくそのとおりのように思います。そこには腐敗があることもそのとおりのように思います。それをわかっていながらそうした経済行為を否定できない政治とはしょせん幻想だと思いますね。ついでに言えば、結局、資本主義は自己矛盾を抱えており、最終的には社会主義的にならざるを得ないということかもしれません。
 
今回の著書で印象に残ったのは、広瀬さんが紹介してくれたアメリカの新聞の批評マンガのレベルの高さです。資本家の掣肘はあるはずなのに、堂々と政治屋、経済屋の愚行を鋭く批判しているのには感心した。

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