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2012/04/12

傑作、西村健「地の底のヤマ」を読む

以前、桜木紫乃さんの「ラブレス」に関連して、第33回吉川英治文学新人賞(吉川英治国民文化振興会、選考委員=浅田次郎、伊集院静、大沢在昌、高橋克彦、宮部みゆき)について紹介した。受賞作は西村健さんの「地の底のヤマ」(講談社、本体価格2500円)であった。

Tinosoko

西村さんは1965年、福岡県大牟田市生まれ。東京大学工学部卒業。労働省に入省の後、フリーライターに。1996年「ビンゴBINGO」で作家デビュー。ノンフィクション、エンタテインメント小説を発表。2005年「劫火」で第24回日本冒険小説協会大賞、2010年「残火」で第29回日本冒険小説協会大賞受賞-とのこと。

なんだろう。変な経歴である。別にキャリア官僚がなんで???ということばかりじゃないが。謎めいている。

既にいろいろ書いている。↓
http://takaoudo.cocolog-nifty.com/takaoudoism/2012/03/post-551b.html

しかし、本は読んでいなかった。機会があって、ようやく読むことができたのだが、まず言っておこう。凄いぞ。本が厚い。4・5センチもある。本文は863頁、24字21行上下2段組である。単純計算で原稿用紙2170枚だ。全体は4部構成で1部220頁弱なので、小さな声で言わせてもらうと、単行本4冊を無理矢理一冊にしたボリューム感である。本作は4部まで読まないとカタストロフィーはやってこないので、それも悪くもないが、ちょっと敷居が高い売り方だ。吉川英治文学新人賞というロケットをつけても、本屋には目立つ積み方もなく、それで手に取った本はまだ初版であった。講談社にはもう少しがんばってほしい。

敷居は高いが、内容は凄い、凄いぞ、凄すぎる!! 警察官を主人公にした警察小説であるが、一種ピカレスクであり、ノワールでもある。

舞台は北海道・石狩炭田と並ぶ炭砿が主産業の福岡県大牟田市。ご存じ三井三池炭鉱のご当地である。この有明海に接した炭鉱都市に起きたいくつかの出来事に遭遇する「猿」こと、伝説の警官、猿渡鉄男を主人公にして、60年安保と並ぶ三池闘争の歴史を縦軸に、朝鮮半島、九州各地から集まってきた人間達の生きるあがきを横軸にして、濃厚なドラマが展開される。

何より登場人物が濃い。猿渡鉄男を囲む白川光、菅靖真、擽園周明(いちぞの=いちは木偏)の「スタンド・バイ・ミー」を思わせる悪童4人組。そして本物の伝説の警官だった父親の猿渡石男、エース刑事でありながら葛藤する安曇憲彦、三池炭鉱旧労組合員の坪田玄作などなど。登場人物はとても多いが、それぞれに魅力的で、できれば映像化されたものも見てみたい。ダメだ、忘れていた。江藤のオッチャンこと炭鉱事故でCO中毒になった江藤新三さん。そして大牟田近辺の有名人や映画やらもいっぱい出てくる。

事件を描いて人を憎まず。街の暗部を描いて街を貶めず。闇を描いて光を忘れず。地元に育った作家の思いが860頁の作品の中に充満して、骨太な愛の物語になっているのだ。<原罪>という十字架を背負っているのが人間じゃないか、ならばその重荷を慮ってやるのが愛というものだろう。事件ハンター(狩人)である主人公「猿」の姿が熱い。

「ここ大牟田では我々の直ぐ足下、地の底にヤマがある。警察は人の心に埋もれた、事件(ヤマ)を探って掘り起こす。なるほどなぁ、炭鉱マンも我々も同じ。どちらもヤマを掘るのが仕事、というわけだ」(119頁)

西日本新聞のHPで

http://www.nishinippon.co.jp/nlp/item/289279
(リンク先変更しました)
西村健さんを囲む出版祝いの催しが紹介されているが、まさにその大牟田の人々のもう一つの「民衆史」が本編といっていい。昭和35年から現在まで、街と人の息遣いが聞こえるのだ。

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コメント

地元の人には知っている場所が多く(ただし著者世代より上)興味深く読めます。

投稿: G3 | 2012/08/26 09:32

福岡の人には肌で感じられる世界なのでしょうね。面白い読み物でした。

投稿: 席亭うど | 2012/09/01 14:43

メールの方が良いのですが、この場所を借りました。
 
この記事(2012/04/12)内容と全く同じ内容の文章が、一部書かれていた投稿がありました。
URI: http://6009.teacup.com/sakou/bbs/index/detail/comm_id/7282
2013年1月投稿記事です。参照してみてください。
後半部分が「地の底のヤマ」の書評、紹介になっています。

同一人物でしょうか。
少々困惑しています。

投稿: 冬樹 | 2013/02/14 20:54

冬樹さん、ご教示、感謝いたします。転載されているのかもしれませんが、私はまったく預かり知りません。要約の際にその方の考えと重なったのであれば、特にそれをどうということはありません。西村健さんの渾身の傑作が多くの人に読まれ、心に残るなら、一読者としてうれしく思います。

投稿: 席亭うど | 2013/02/15 17:18

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