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2012/02/26

円城塔さん講演会、サイン会に行く

札幌出身の芥川賞作家、円城塔さんの文芸講演会が2月25日に札幌市中央区の札幌パークホテルで開かれたので、聞きに行く。

札幌大学の山崎真紀子教授と北海道新聞の文化記者が聞き役になって、第146回受賞作「道化師の蝶」の創作の秘密について、円城さんに語ってもらうスタイルだった。

仕掛けについて、今ひとつ、謎っぽさが消えなかったが、会場からの質疑応答で、SF作家の大御所の荒巻義雄さんが「道化師の蝶」は時間と空間を超えるタイムマシン小説ではないか、と爆弾発言をして円城さんに迫ったのが面白かった。

会場は文学ファン300人近くが集まり大盛況。「本を買って読んでみたが、やっぱりわからなかった」的な女性の声や「私はこう読んだ」といった男性の発言もあり、「道化師の蝶」の難解ぶりがますます深まった。

もっとも、同時受賞の田中慎弥さんの「共喰い」が作家の不機嫌パフォーマンスで人気が過熱しているが、円城さんは「田中さんのおかげで、私の本も売れてくれています」とユーモアたっぷりに語っていた。

終了後にはサイン会が行われたが、ざっと見100人を超える人が並び、ものすごい注目度だった。

Sign

さて、私である。今回の講演会に備えて、まず、「群像」2011年7月号掲載の「道化師の蝶」(芥川賞受賞作)、それから「文学界」2007年6月号掲載6の「オブ・ザ・ベースボール」(文学界新人賞受賞作)をコピーで読む。

先行の「オブ・ザ・ベースボール」はユーモア小説であり、一種のナンセンス小説である。「道化師の蝶」もその意味ではナンセンス小説と読むとわかりやすい。登場人物が入れ子状態でぐるぐる変わって、円環する。飛んでいるのはナボコフの架空の蝶だ。もっともそいつは、着想を摑まえる網によって変異するのだ。

Ofthe

「ライティングマシーン」円城塔の生みの親である東大の金子邦彦さんの「カオスの紡ぐ夢の中で」(ハヤカワ文庫、本体価格60円)は複雑系のエッセーであるが、複雑系というよりも難解系である点で円城さんと共通だ。「小説 進物史観」には円城塔李久、紫園京水、大堂林恭甫などの人工作家が登場しているのが面白い。

Kaosu

初期の「Self-Reference ENGINE」(ハヤカワ文庫、本体価格680円)、」「Boy's Surface」(ハヤカワ文庫、本体価格620円)の2冊。デビュー作のほうでは7番目の「Bobby-Socks」がなんというか楽しい。「文学が、円城塔に追いついた」とのオビがついた「青年の表面」では表題作に登場するレフラー球が面白く、ものすごく詩的だ。円城さんは物理学者であるが、詩人でもある。

Self


Boys

円城さんが芥川賞受賞会見で放ったのが亡くなった伊藤計劃の「屍者の帝国」を書き継ぐということ。その話も聞きたかったので伊藤計劃の「屍者の帝国」プロローグと円城さんのSF「Beaver Weaver」の収載されている大森望編集の「NOVA1」(河出文庫、本体価格950円)、並びに喫茶店が執筆の場という円城さんの日常をメタフィクション化した喫茶店小説「犀が通る」が収載されている「NOVA3」(河出文庫、本体価格950円)を読む。

Nova1


Nova3

円城さんは「屍者の帝国」を書き上げているようで、なんだか楽しみである。

つまらない話を長々と書いてきたので、特ダネを1つ入れておこう。

実は円城さんは第146回の芥川賞受賞者であるが、第145回には「これはペンです」が候補作になっている。その回は結局受賞作がなかったのだが、一緒に候補になっていたのが「甘露」という作品で、作者は水原涼さんという北大在学中の若い学生作家だ。円城さんも水原さんもともに文学界新人賞を受賞しているが、同じ回ではともに芥川賞に落選している。その2人のツーショットが講演会の後に実現した。もしかしたら、日本文学のON砲(古いかな)になるかもしれない2人のたぶん初めてのツーショットを撮らしてもらった。

Mizuhara

札幌の匂いが2人の文学の根底にあることを言祝ぎたい。

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