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2012/02/11

第146回芥川賞「共喰い」の世界の苦悶する暴力性

月刊「文藝春秋」2012年3月特別号(文藝春秋、890円)を読む。今号は「第146回芥川賞発表」号であり、受賞2作円城塔「道化師の蝶」、田中慎弥「共喰い」の全文を掲載している。また8人の選考委員の選評も載っているのだ。

Bunsyun201203

注目は田中慎弥さんの「共喰い」である。実は今回、ようやく読んだのだが、その私小説空間の濃厚さにあらためて驚いた。

下関と思われる古びた町の古びた地区「川辺」が舞台。昭和63年7月、17歳の誕生日を迎えた主人公の青年、篠垣遠馬、1歳上の恋人会田千種、生みの親で戦争で片手を失っている魚屋の仁子さん、海に近い飲み屋街の店に勤めている義理の母の琴子さん、そして動物的な欲求をみなぎらせて暴力的な父親の円というところが主な登場人物。そのほか、アパートの前で客引きをする女性、さらに狂言回しのような子どもたちが出てくるくらい。まあ、極めて、狭い世界の物語である。

父親はセックスの時に暴力をふるう性癖を持つ。息子の遠馬も、思春期になり、その「血」が流れている自分の禍々しさに次第に嫌悪を抱き始めている。物語は父親のセックスの方銃により、事件が起き、終わる。女性の性器を思わせる川では、「鰻釣り」のエピソードが語られ、まさしく、性的な共喰いの世界が暗示される。

父親殺し-というものが男の青春物語の源基とすれば、本作はまさしく無明の世界を這いずりながら、生きていこうとする青春の出発の物語の典型であることがわかる。

リアルな描写で狭い世界が描かれているが、「川辺」の街は路地裏のような神話的空間へと広がっていく。ああ、なるほどなあ、これは中上健次の世界をおもわせるのだなあ、と感じた。以前、芥川賞の候補作となった「第三紀層の魚」を読んでいるが、あのときの緩さが今回は性の突出を含め、ものすごくパワーアップしているのだ。

選考委員評では、「宿敵」の石原慎太郎が「次から次安手でえげつない出し物が続く作品で、読み物としては一番読みやすかった」と、相変わらず、「共喰い」ならぬ「人喰い」の評を書いているのが面白かった。一方、高樹のぶ子さんが「中上健次の時代に戻ったかと思わせたが、都会の青春小説が輝きも確執も懊悩も失い、浮遊するプアヤングしか描かれなくなると、このように一地方に囲い込まれた土着熱が、新鮮かつ未来的に見え、説得力を持ってくる」と極めて的確な評を記しているのが鮮やかであった。


今回の受賞作は円城塔さんの「道化師の蝶」が難解であることや、田中さんjの作品がいささか濃厚すぎるテイストでもあり、そこそこ売れても、浮力のついた大衆的人気とはなりにくいように思われた。

ちなみに「美女と野獣」コンビの受賞で大評判となった1年前の第144回については
<芥川賞人気の「文藝春秋」3月特大号を読む>を参照を。
http://takaoudo.cocolog-nifty.com/takaoudoism/2011/02/post-51d5.html

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