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2011/05/06

黒岩比佐子著「パンとペン 社会主義者・堺利彦と『売文社』の闘い」(講談社、2520円)を読む

第62回読売文学賞受賞の黒岩比佐子さんの「パンとペン」をようやく読み終えた。なんという凄い本であろうか。その取材力、筆力に圧倒されるとともに、黒岩さんの熱い思いが迸っており、魂が震える迫力を感じた。

以下、講談社BOOK倶楽部からの引用。
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/100/past/kuroiwa_index.html

<内容紹介> 高校の歴史教科書に載っていながら、明治や大正時代に活動した社会主義者、例えば幸徳秋水や大杉栄に比べれば、堺利彦の知名度は低いかもしれない。ただ、本書をお読みいただければ分かるように、堺は病弱な秋水を支え、過激に走る大杉を牽制しながら、国民が平等に平和に暮らしてゆくためにはどうすればよいか、その本来の目的のため社会主義者たちをまとめる存在だった。著者は、その姿を大石内蔵助に譬える。担当者は、『七人の侍』の志村喬に仮託したい(侍みたいに勝つわけではないが)。
弾圧の時代、行き場のない社会主義者たちに生計の道を与え、交流の場を用意し、若者を教育するために興した会社が「売文社」だった。まさに文を売る会社。依頼があれば財界人の自伝から学生の卒論、子供の命名まで何にでも腕をふるった。それを率いるのが、小説を書けば森鴎外に認められ、漱石も気にかけ、尾崎紅葉、有島武郎、宮武外骨らと親交を結び、松本清張とも意外な接点があり、その上、アルセーヌ・ルパンや「野生の呼び声」、バーナード・ショーを紹介する語学力の持主・堺だった。
本書はこれまで、政治活動の面ばかりにスポットが当たっていた堺利彦に、彼の文学・文才からアプローチする新しい視点を持ったノンフィクション。

<著者メッセージ> 幸徳秋水と共に平民社を創設し、『平民新聞』を創刊して日露戦争に反対したことで知られ、「日本社会主義運動の父」とも呼ばれている堺利彦。
  しかし、それだけでなく、堺利彦は驚くほど多彩な顔をもっていました。「枯川の名で知られる小説家」「言文一致運動の推進者」「女性解放運動に尽したフェミニスト」「海外文学の紹介者で翻訳の名手」「新聞雑誌の編集人」「社会主義者で投獄された第一号」「日本一のユーモリスト」……。そして、私にとっての堺利彦は「売文社社長」。堺利彦の人間としての魅力は、8年余り続いた「売文社」時代にこそ遺憾なく発揮されたと思っているからです。 
 今年(2010年)は大逆事件から100年。1910(明治43)年に起こったこの事件で、幸徳秋水ら社会主義者24人は翌年1月に死刑判決を受け、半数が特赦で無期懲役に減刑されたものの、12人は異例の早さで刑を執行されています。当時、獄中にいた堺利彦は幸運にも命拾いをしますが、ここから社会主義運動の「冬の時代」が始まったのでした。 
 厳しい弾圧の中で、堺利彦が1910年12月に設立したのが「売文社」です。100年前に誕生したこの「売文社」こそ、日本初の編集プロダクションかつ外国語翻訳会社だといえるでしょう。「売文社」にはどんな社員がいて、“ペンによってパンを得る”ためにどんな仕事をしていたのか。調べ始めると思いがけない事実が次々に明らかになり、驚くばかり。「売文社」というテーマにめぐり逢えたことを、著者として心から感謝しています。

引用、以上まで。

Kuroiwa


確かに、堺利彦と言われても、大杉栄や幸徳秋水といった「スター」に比べると、地味であった。しかも、どちらかといえば「社会党」「連合党」「労農派」といった軟弱なイメージが一般的だったのではなかろうか。だが、本書を読んで、びっくりした。ぜんぜん違った。筋金入りの「非戦派」であり「社会革命派」であり、全くぶれていない。それでいて、実に多彩。才能と人柄の大きさが、「売文社」といういかにも人を食ったような名前の編集プロダクションを創造し、後退期の社会運動の不抜の拠点でありながら、一級の創造的文業を成し遂げていたのである。その人脈の広さ、学識の深さ、圧倒されるとしか言いようがない。

もちろん、堺利彦が為し得た部分がすべてではないことは明確だ。しかし、それでも「冬の時代」における最上の抵抗を示して見せた。初期社会主義者群像も魅力的である。

黒岩さんは膵臓がんと闘いながら本書を書き続け、刊行まもない2010年11月17日、52歳で急逝した。

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