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2011/03/18

角田光代著「ツリーハウス」(文藝春秋、1700円)を読む

西新宿の小さな中華料理屋「翡翠飯店」を巡る三代記。祖父母、両親、無職の叔父、孫に加えて、常に誰かしら出入りするゲストハウスさながらの大家族の足元には、大陸帰りの物語が眠っていました。祖父の死で虚脱してしまった気丈な祖母ヤエを伴った満州行が、封印された過去への旅の幕開けとなります。戦争、引揚げ、戦後を生き抜き、半世紀の間ヤエが抱えてきた思いを知った時、私たちが失いつつある美しい何かが頁の向こうに立ち上がってきます。(OY)(文藝春秋HPより)

角田光代著「ツリーハウス」(文藝春秋、1700円)を読む


オビに「新宿角筈『翡翠飯店』クロニクル 後悔したって、/もし、なんて/ないんだよ」とある。すなわち、新宿の一角にある中華料理店の一族三代の物語である。満州にいた祖父母、引き揚げてきた新宿の地で育った団塊=学生運動世代の父親たち、そしてギャル文化やフリーター的である孫たちの、それぞれの生きる姿が描かれている。

なんというスケールの大きさだろう。本書の特徴はなによりも生きる意志の物語だということである。満州の開拓団から逃げ出した祖父、藤代泰蔵の生き方のライトモチーフが、その子・慎乃輔、孫の良嗣に受け継がれていく。

泰蔵は言う。
「そこにいるのがしんどいと思ったら逃げろ。逃げるのは悪いことじゃない。逃げたことを自分でわかってれば、それは悪いことじゃない。闘うばっかりがえらいんじゃない」

泰蔵のパートナーであるヤエも言う。
「私たちは抗うために逃げた。生きるために逃げたんだ。でも今はそんな時代じゃない」


「木の上の秘密基地に暮らす家族」あるいは「デラシネ」のような家族であるが、しかし、不思議な魅力にあふれた一族、しかしそれは普通の庶民である。

ちなみに、昭和26年の冬に生まれた末の男の子、基三郎は高校生のことから反戦運動を続け、連合赤軍があさま山荘事件を起こした年の夏、「ごめんね」との言葉を残し、飛び降り自殺する。優しい人間ほど生きにくい時代があった。ちなみに、私は基三郎と同じ生まれであり、その儚い命が他人事のようには思えなかったことである。

なんとか三代の物語…というのは幾つもあるが、時代と人間像の描き方のぶれなさは卓越しており、文章の力を含め本作は文句なしにすごい。

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