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2011/03/11

小川洋子著「原稿零枚日記」(集英社、1365円)を読む

ある作家の奇妙でいとしい日常。日記体小説
原稿が進まない作家の私。苔むす宿での奇妙な体験、盗作のニュースに心騒ぎ、子泣き相撲に出かけていく。ある作家の奇想天外な日々を通じ、人間の営みの美しさと面白さが浮かび上がる新境地長編。(集英社HPより)

作者紹介:小川洋子(おがわ・ようこ) 1962年岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2003年「博士の愛した数式」がベストセラーとなり、04年読売文学賞、本屋大賞受賞。同年「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花賞、06年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞受賞。著書多数。芥川賞、三島由紀夫賞、太宰治賞の選考委員を務める。(単行本より)

小川洋子著「原稿零枚日記」(集英社、1365円)を読む


変な小説である。作家らしい女性が折々の出来事を書いているのだが、それはこの女性のいる微妙な場所を証明しているわけで、結局、目指している小説の原稿が書けないままで終わるのだ。

その出来事とは「長編小説の取材のため宇宙船研究所を見学し、F温泉に泊まる」のだが、いつしか道に迷い込んでしまい、そこの苔料理専門店で、死体に生えた苔を見ながら食べるというエピソードから始まり、子ども時代の家の思い出語り、隣町の運動会荒らし、生活改善課のRさんが吹くトランペットの「ドウケツエビの宇宙」を聞いたり、あらすじ教室の講師を引き受けたり、U文学新人賞のパーティーに行ったり、いろいろである。

そこには、たぶん「幽霊」が現れる。いや違うかもしれないが、そのようなものである。そのようなものとはどういうものか、というと「宙ぶらりん」なものである。それは結局は作者自身ということになる。

こちたい言い方になっているが、主人公の女性は宙ぶらりんなのだ。作家になろうとしているのに「原稿」を書けないまま「あらすじ」を書き続けたままだ。子どもの親であり、だれかの恋人か妻でありたい。だが、子どもは生まれたのか死んだのか殺したのか、わからない。生と死の境にぶらさがっている。だから、身近な人たちは次第に遠ざかっていく。死んだのか、消えたのか。主人公はそのギリギリのところで、生きる側に身を置いて、すべての関係を「観察」し、「記録」していくのだ。

この「宙ぶらりん」感がまさしく現代的であるわけで、作者の並外れた力量を感じさせる作品である。

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