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2011/03/01

市橋達也著「逮捕されるまで」(幻冬舎、1365円)を読む

千葉県市川市のマンションで2007年3月26日、英国籍の英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=の遺体が見つかった事件で、容疑者として警察に指名手配されていた無職市橋達也容疑者が2009年11月10日に大阪府警により大阪市住之江区のフェリー乗り場で発見、逮捕されるまでの容疑者本人のドキュメンタリーである。

英国人女性を結果的に死亡させ、逃亡者となった容疑者の「告白」本だけに、倫理的問題やら異論はあるだろうが、ノンフィクションとして読むならば、大変興味深く、面白かった。やはり、当人でなければ書けない「真実」というようなものがそこにはあるからだ。

市橋達也著「逮捕されるまで」(幻冬舎、1365円)を読む


まず、追い詰められた人間として、とにかく逃げた。その死にものぐるいさがわかった。「駅」を中継点に、電車に乗り、また歩き回る。そのエネルギーがすごい。

容疑者はUSBデータメモリーに入れた英語を聞き、図書館や新聞で情報を得る。「ライ麦畑でつかまえて」を原書で読む。間が抜けて勤勉なのだ。四国に渡り、88カ所お遍路巡りに挑む。映画「死国」への言及が多い。私もこの坂東真砂子原作の映画を「リング2」との併映で99年1月28日に見ているが、確かに、あの幽冥境を超える話は印象深い。ジュード・ロウの「クロコダイルの涙」も触れているが、どちらも容疑者の心に響く何かがあるのだ。

関西のドヤ街、飯場で職を見つける。勤勉に働く。日本の底辺を流浪しているのだが、ある種の覚醒感がスケッチなどから高い抽象力として伝わってくる。ただ、必ず一度は大きな喧嘩をする。どこかにキレる要素をもっているのだ。

警察の動きが少しでも感じられたり、周囲の人間が訝しく思っていると感じられたら、迷わず速攻で高飛びする。リゾートは沖縄の島だ。そこで、ロビンソン・クルーソーのように生きる。

お金がたまると、顔を変える。それで、整形外科からの連絡で逮捕されるのだが、自分の顔がイヤなのだ。金がない逃亡時点でも鼻に針をさしているし、唇を傷つけている。この自己変身的な本性はかなり決定的な何かである。

英国人女性を被害者としたことを申し訳なく思っているが、決してきちんと向き合ってはいない。懺悔をしているというが、真相は閉ざしたままなのだ。著者は「直感」ということを強調し、それはある種の生存本能のようであるが、それがまた事件の根底の歪みにつながっているようにも感じられた。

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