« 高樹のぶ子著「甘苦上海」完結版(日経新聞出版、2310円)を読む | トップページ | 平野啓一郎著「かたちだけの愛」(中央公論新社、1785円)を読む »

2011/03/30

奥泉光著「シューマンの指」(講談社、1,680 円)を読む

「シューマンの音楽は、甘美で、鮮烈で、そして、血なまぐさい――」
 シューマンに憑かれた天才美少年ピアニスト、永嶺修人。彼に焦がれる音大受験生の「わたし」。彼らが通う高校で、ある夜、殺人事件が起きる。事件は未解決のまま、修人は指に、ピアニストとしては致命的な怪我を負ってしまう。不可解な謎は残されたまま30余年の年月が流れ、「わたし」の元に修人が外国でシューマンを弾いていたという噂が伝わる。修人の指に、なにが起きたのか――。  
 生誕200周年・シューマンに捧げる本格音楽ミステリ。

奥泉光(おくいずみ・ひかる) 1956年、山形県生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。同大学院修士課程修了(博士課程中退)。現在、近畿大学教授。1993年『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞、1994年『石の来歴』で芥川賞受賞。2009年『神器 軍艦「橿原」殺人事件』で野間文芸賞受賞。著書に『バナールな現象』『『吾輩は猫である』殺人事件』『グランド・ミステリー』『鳥類学者のファンタジア』『浪漫的な行軍の記録』『新・地底旅行』『モーダルな事象-桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』などがある。(以上、講談社HPより)

奥泉光著「シューマンの指」(講談社、1,680<br />
 円)を読む


ミステリーである。とにかく、前半というか全般はシューマンをめぐる音楽論が展開されるのである。中盤、殺人事件が起きてからは一挙に謎解きが走り出し、最後には怒濤のトリプルアクセルで、ひねってひねってひねって着地する。それはそれで見事なのだが、それじゃ、今まで読んできた物語世界は何? と素朴な混乱に陥るのである。

主人公の名前は永嶺修人。「修人」で「まさと」と読むのであるが、なんかしっくりこない。まもなく、この名前は「シューマン」の漢字表記なのだとわかる。すると、シューマンって誰だ? ということになるのである。 当然だろう。
つまり、この物語は「シューマン=修人」に憑かれた人たちが繰り広げる不協和音の世界として(それこそがシューマンとでも言うように)展開されるのである。

音楽をめぐる蘊蓄はシューマンを知らなければ、冗長である。その部分は音楽を聞くしかない。不案内者にはちょっとつらい。それでも、物語にはいろいろな伏線が複線のように張られていて、後から「なるほど」と得心させられる。見事である。物語の中に「音楽がない」という言葉が出てくるが、それを真似して言えば、「人間がない」という不思議な世界でもあった。

|
|

« 高樹のぶ子著「甘苦上海」完結版(日経新聞出版、2310円)を読む | トップページ | 平野啓一郎著「かたちだけの愛」(中央公論新社、1785円)を読む »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87302/51254194

この記事へのトラックバック一覧です: 奥泉光著「シューマンの指」(講談社、1,680 円)を読む:

« 高樹のぶ子著「甘苦上海」完結版(日経新聞出版、2310円)を読む | トップページ | 平野啓一郎著「かたちだけの愛」(中央公論新社、1785円)を読む »