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2011/02/26

辻原登著「闇の奥」(文藝春秋、1575円)を読む

昭和20年、ボルネオのジャングルで気鋭の民族学者・三上隆が忽然(こつぜん)と姿を消した。終戦間近の混乱のなかで死亡したと思われたが、彼の生存を信じる者たちによって、捜索団が結成される。次々と現われる三上の目撃情報。それはボルネオから遥かなチベットへとつながっていく……。世界各地に残る小人(ネグリト)伝説を追う大冒険ロマン。(AH)(文藝春秋HPより)

Yami


不思議な冒険物語だ。とにかく、「蝶」と「小人」に魅せられた人たちが繰り広げるハイパー・トラベル・ミステリーというべきか。三上隆という転生する人物を追いながら、紀州の山奥から、ボルネオのジャングル、さらにはチベットの奥深くへと、旅は続く。

作者のどこか超越的な書きぶりで、軽快自在に物語が展開するのだ。そして、和歌山毒カレー事件のような実際の事件やダライ・ラマの亡命劇のエピソードが盛り込まれている。毒カレー事件は確かに奇妙な事件で、誤解されると困るがその土地の風土がどこかで由来しているようにも見えた。それゆえに、小説は虚実皮膜の間をスリリングに進んでいく。

読んでいて感じるのは紀州という作家のルーツが本当に色濃いのだな。たぶん、紀の国の醸し出すフォークロア的なものが誇大妄想となって世界中のエピソードと感応連鎖しているのだ。三上隆のモデルは実際にあるらしいが、私は南方熊楠のような博物学者を第一に思い浮かべた。

登場人物では須永ことリンチェン・ドルマ・ユードゥンというチベット女性の魅力がピカイチである。彼女の登場で、最後の冒険譚は幽冥境を超えていく。彼女はちょっと何かの生まれ変わりのように思えた。

作家の力量のすごさがわかる物語である。

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