« 映画「ソーシャル・ネットワーク」を見る | トップページ | 宮内勝典著「魔王の愛」を読む »

2011/02/16

芥川賞人気の「文藝春秋」3月特大号を読む

「文藝春秋」3月特大号(860円)が売れているらしい。なんでも初刷り75万部だが、好評につき5万部の増刷という。それもこれも、芥川賞効果である。第144回受賞作の朝吹真理子「きことわ」、西村賢太「苦役列車」を全文掲載しているからである。文春の増刷は、金原ひとみさん「蛇にピアス」、綿矢りさ「蹴りたい背中」のヤングガールの同時受賞となった2004年3月号以来7年ぶりだそうだ。(そのときは100万部とか)

芥川賞人気の「文藝春秋」3月特大号を読む


一時的な文芸復興なのか、美女と野獣効果なのかは分からないが、めでたいことではある。「文春」特大号であるが、860円の定価に80万部。となると、総売上高は6億8800万円である。かつて、芥川ショーと言った人がいるが、結構なイベントである。

今回受賞の2作品はいずれも文芸誌の「新潮」に掲載された作品だ。単行本は新潮社からいずれも1260円で刊行されている。どちらも10万部の大台を超えているそうで、1260円×2×100000=2億5200万0000円ということで、合わせると10億円近い経済効果になる。そして、直木賞も「オール読物」及び単行本の売り上げアップとなると、なんと素晴らしいwin=winの文学賞スキームなのだろうか。

貧乏人の戯れ言はここまで。
「きことわ」圧勝の下馬評の中で、私小説「苦役列車」の同着入賞となった今回の芥川賞である。「文藝春秋」には当日おしゃべりした人以外の選考委員の短評も載っているのが魅力である。とはいえ、スポークスマンのような島田雅彦の「苦役列車」はドストエフスキー「地下室の手記」の主人公に似ている、「きことわ」はプルーストやデュラスだ、というキャッチがしっかり生きている。

ことほどさように受賞作を大方の人は誉めているが、比較的冷静と思える評文を記しているのは小川洋子さん。「『きことわ』の人物たちにはまるで質量がないかのようだ……どちらがどちらか区別のつかない一続きのものになってしまう」と指摘している。

厳しかったのは村上龍さん。「二作受賞に積極的に反対しなかったが、積極的に推したわけでもなかった。二つの小説は趣も文体も違う。だが、共通する点もある。……『陳腐』であるということだ」。小説が現実を織り込み、作家は無意識のうちにそれに対峙するがゆえに「高度な洗練は、この閉塞的な現実を前にしたとき、作品を陳腐化する場合がある」という。鋭い批評である。

一番の目配りで批評しているのは川上弘美さん。「第三紀層の魚」には「三回、わたしはこの小説を読みました。読むたびに好きになりました」、「母子寮前」には「引きこまれました。……虚無を表すのに、作者は偽悪的な書きようをしています。それがなによりよかった」、「あぶらびれ」には「つげ義春の作品を連想しました」という。受賞作の「苦役列車」には「作者は、すでに自分の『型』を見つけています。その『型』を、どようにように磨いてゆくのか。または壊してゆくのか」と。そして「きことわ」には「『意匠としての言葉のゆらぎ』にあらざる『単なる表現の揺れ』は、ごくオーソドックスな小説よりも遙かに大きな疵となってしまうのでないかと思うのです」と述べています。優しい言葉の中に、厳しさが貫かれている。

|
|

« 映画「ソーシャル・ネットワーク」を見る | トップページ | 宮内勝典著「魔王の愛」を読む »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87302/50886907

この記事へのトラックバック一覧です: 芥川賞人気の「文藝春秋」3月特大号を読む:

« 映画「ソーシャル・ネットワーク」を見る | トップページ | 宮内勝典著「魔王の愛」を読む »