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2011/01/28

乾ルカさんの新しい奇跡の物語、「六月の輝き」を読む

乾ルカ「六月の輝き」(集英社、1470円)を読む。

戻りたい──いちばん美しい季節の光の中へ。
同じ誕生日、隣同士の家に生まれた美奈子と美耶。互いに「特別」な存在だった。11歳の夏、美耶の「ある能力」がふたりの関係に深い影を落とすまでは……。純粋な想いが奇跡をよぶ、「絆」の物語。(集英社hpより)

乾ルカさんは1970年2月11日生まれ。北海道札幌市生まれ。短大卒。銀行員、資格予備校アルバイトを経て、平成18年/2006年「夏光」でオール讀物新人賞受賞。 「あの日にかえりたい」(実業之日本社)で第143回直木賞候補になる。惜しくも受賞を逃したが、選評で宮城谷昌光さんが「注目した」「この作品には、過去と現在、生と死が織り込まれており、いわばモザイクのような形式になっている。しかしきれいに混乱は避けられており、それだけでも氏の才能が尋常ではないとわかる。」と激賞した。(この項、「直木賞のすべて」hp参照)

Rokugatu

乾ルカさんは引き締まった美しい文章で、心に沁みる「奇跡」の物語を書き続けている作家である。思えば、「メグル」(東京創元社)は幽霊物語で、大学の学生部厚生課奨学係の女性職員に斡旋されてアルバイトに行くと、次々と「目からウロコ」の体験をするという連作であった。そして、「越境する」奇跡の物語から<時間>を超えるテーマを鮮明にした愛の物語が「あの日にかえりたい」(実業之日本社)であった。さらに、「蜜姫村」(角川春樹事務所)は謎の長寿・健康村の裏側にある驚愕の事実を乗り越えて、新たな生きる意味の決意性が示されるという伝奇的スケールの大きな再生の物語であった。

本作についての謎あかしはできないが、やはり<時間>を超える奇跡の物語である。「小説すばる」に連載された7編をまとめた本作は、ある特殊な能力=「神の」「白い手」を持つ瀬戸美耶の近辺にいる人物たちがそれぞれ綴る奇跡の物語として構成されている。オビに紹介されている主な登場人物のプロフィルは以下のとおり。

外崎美奈子=美耶の幼なじみ。レストランを切り盛りする父親が大好き。瀬戸恵子=美耶の母。働かない夫と特別な能力を持つ娘を疎んじている。渡辺史恵=美奈子、美耶の級友。医者の娘で優等生。愛犬を大切にしている。高田洋行=繁華街で顔を利かせる。慎也、通りがかりに美奈子を助ける。平田隆哉=筋肉が動かなくなる難病で入院中。ノートに手記を綴る。外崎真喜子=美奈子の母。闘病中。美耶と仲違いした娘の将来を案じる。

<ギフト>は<ロスト>である。与えることは失うことである。しかし、<ギフト>は一度であろうと奇跡を招来させて、なにかを<再生>させることができるのだ。多くのことがらはやり直しができるが、切実なものほどやり直しはできない。「もし…」ということは脳内の仮説でしかないのだが、それでも可能性を信じたいというのが人間であろう。その奇跡の時間があれば…。

7編の物語はそれぞれの登場人物の陰翳(たとえば悲しみや憎しみ)により切実に心に響くが、とりわけ終盤に向かって緊張感が高まる。第6章「雪と桜」、最終章「六月の輝き」は人を愛するという思いの優しさと切なさがひりひりと行間に滲み出している。なんと心洗われる作品であることか。人の手は奇跡を起こすだけではなく、人の心を結ぶことができる。

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