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2011/01/19

木内昇「漂砂のうたう」(集英社、1785円)を読む

明治10年。根津遊廓に生きた人々を描く長編。ご一新から十年。御家人の次男坊だった定九郎は、出自を隠し根津遊郭で働いている。花魁、遣手、男衆たち…変わりゆく時代に翻弄されながら、谷底で生きる男と女を描く長編小説。 (集英社HPより)

Hyousa

第144回直木賞受賞作である。実は候補作5点が発表されてからのことであるが、木内昇(きうち・のぼり)さんの「漂砂のうたう」は店頭から品切れ状態になり、ネットでは高値が着いているとの情報があった。きちんと調べなかったので、それが真実かどうか定かではないが、要するに、業界関係者の間では、本作が直木賞最有力候補!であったということである。

そんなわけで、それほどの前評判ならばと読んでみたが、実のところ私にはそれほどではなかった。いささか上品な世話物という感じであるが、しかし、三遊亭円朝やらが現というか幻というかチラチラとして、少し謎が残されているあたりが、なかなか曲者であるなあ、とは思ったことである。

略歴をwikipediaで見れば、「木内 昇(きうち のぼり、1967年-)は日本の作家、編集者。東京都出身。女性。中央大学文学部哲学科心理学専攻卒業。出版社勤務を経て独立し、インタヴュー雑誌『Spotting』を主宰するなど、フリーランスの編集者、ライターとして活躍。その後小説家としてもデビューし、『茗荷谷の猫』が各誌紙の書評で絶賛され大きな話題を呼ぶ。2009年、第2回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞受賞。2011年、『漂砂のうたう』で第144回直木賞受賞。」とある。

なるほど心理学科出身にして出版社勤務ということで、その辺の経歴は見事に生きていることだ。朝日新聞の2010年11月5日のインタビュー記事を読んだが、「時代のせいとも個人のせいともいい切れない時代の力に飲まれて、にっちもさっちもいかない。そんなはざまにいる人間を描きたかった。派遣切りなどの問題に直面している現代の若者にも通じるものがあるのでは」と述べている。そうか、そんなあたりが現代的であったのだろうか。うまいなあ、と感心したことである。

実をいえば、第144回芥川賞受賞の朝吹真理子さんの「きことわ」はガチガチの大本命であった。「きことわ」は上品なお嬢様ふうの味わいがあり、そこが受賞が当然であるが、下層プロレタリアートを出自とする私的には全くもってプチブル的である、と怒りたくなるところであったのだが、木内作品にもちょっと似た匂いを感じてしまっていたのだが、インタビューを読むと、ちょっと違ったのかもしれないと思ったりもするのだ。

いずれにしろ朝吹さんや前回の中島京子さんの「小さいおうち」などのプチブル主義の跳梁(ちょうりょう)に対して、西村賢太さんが「苦役列車」で芥川賞を取ったというのはそうした風潮に対する毒も必要ということなのかもしれないと思ったことであった。

芥川賞については別の機会に。

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