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2011/01/19

荻原浩「砂の王国」上下(講談社、各1785円)を読む

もう後戻りはできない。作りだされた虚像の上に、見る間に膨れ上がってゆく「大地の会」。会員たちの熱狂は創設者の思惑をも越え、やがて手に負えないものになった。人の心を惹きつけ、操り、そして――壮大な賭けが迎える慟哭の結末!奇跡のような成功の中、私は思う。誰かに救ってほしいと。人間の底知れぬ強さとかぎりない脆さ。傑作小説、堂々完結!3人で立ち上げた新興宗教はすべて描かれた設計図どおりに発展する。ホームレス生活からの劇的な生還。だが多くを手に入れ、ふと振り返るとそこにあるのは空虚な祝祭と、不協和音だった――。(講談社HPより)

Sunanookoku


荻原浩さんというと「明日の記憶」が印象的である。なにしろ、自分もまもなくカンレキという年齢になり、物忘れが結構ひどくなっている。特に体調の悪い時は、人の名前が思い出せない。えっと、あなた、誰でしたっけ? てな調子で若年性のアルツハイマーは人ごとではないのである。

いずれにしろ、実感のある(リアリティのある)作品を見事に書き上げるのが荻原浩さんの実力である。本作は第144回直木賞の候補作であるが、株屋さんからホームレスになった男がマルチ商法をヒントに、ひょんなことから新興宗教をホームレス仲間2人と立ち上げて大成功するという物語である。これが実にうまい。要所要所にちりばめられているキャッチフレーズというか演説というか、それらが見事に決まっているのである。本当にうまい。

さて、大成功の後は転落である。こちらは本当に怖い。一応、新興宗教をモデルにしてはいるが、もしかしたら、そうでない宗教でも破門されたり除名されたりすると、非業の最期を遂げるというのはあり得るのかな、と想像させられるのである。これは背筋が寒くなる話になっている。

本作は堂々の直木賞だろう、と思った。しかし、残念なことに届かなかった。評価も「悪の教典」並みに低かったようである。それはいけないなあ。リアリティがあって、同時にもの凄くファンタジックで、心に残るエンターテインメントである。次回の覚醒を期待したい。

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会社を辞め、転職に失敗し・・・極貧の中で考えた社会への復讐とは?  まずは来訪記念にどうかひとつ!  人気blogランキング【あらすじ】全財産は、三円。転落はほんの少しのきっかけで起きた。大手証券会社勤務からホームレスになり、寒さと飢えと人々の侮蔑の目の中で閃く―「宗教を興す」。作りだされた虚像の上に、見る間に膨れ上がってゆく「大地の会」。会員たちの熱狂は創設者の思惑をも越え、やがて手に負えないものになった。人の心を惹きつけ、操り、そして―壮大な賭けが迎える慟哭の結末・・・三円からの逆襲、それは・・... [続きを読む]

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