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2011/01/19

道尾秀介「月と蟹」(文藝春秋社、1470円)を読む

第144回直木賞が1月17日発表された。そして、見事、受賞したのが道尾秀介さんの本作「月と蟹」である。道尾さんは今回が5度目の候補だっただけに「歴史の名を刻めたことがうれしい」と率直に喜びを語ったとのことだ。ご同慶の至りである。ここから5本、直木賞シリーズである。

さて、本作「月と蟹」についてアウトラインを発行元の文春HPより引用しよう。

<きっと生涯忘れない、子供たちとカミサマの物語小学生の慎一と春也は「ヤドカミ様」なる願い事遊びを考え出す。100円欲しい、いじめっ子をこらしめる――他愛ない儀式はいつしかより切実な願いへと変わり、子供たちのやり場のない「祈り」が周囲の大人に、そして彼ら自身に暗い刃を向ける……。
注目度ナンバー1の著者による最新長篇小説。鎌倉の風や潮のにおいまで感じさせる瑞々しい筆致で描かれる、少年たちのひと夏が切なく胸に迫ります。

道尾秀介(みちお・しゅうすけ) 1975年生まれ。2004年『背の眼』でデビュー。07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞受賞。09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞受賞。10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞を受賞。>(以上、文春HPより)

Tukitokani


前作「光媒の花」もそうであったが、純文学のような緊張感の高い文章で、どちらかといえば暗い物語が綴られていく。正直、エンターテインメントの直木賞にしては「華」がないのであり、芥川賞ならば、それはそれでいいなあ、という作品である。事前の私の予想では「次点」もしくは「同着受賞」ということであったので、結果としては読みが当たったというところである。

子どもたちの持つ絶対的な悲しみというものがあるとすれば、道尾さんの作品はよく捉えているように思われた。蟹がそうであるように、大人への脱皮という質の転換の時を掘り下げて表現してみせた。

子どもに対する存在は親である。本作では一方は父を亡くし、他方は母を亡くした2人の子どもがその残された親たちの「関係」を目撃して心を揺すられることが柱の一つになっている。不思議なことに、その出来事が大きなテーマであるのだが、作品は微妙にドロドロというか愛の世界には踏み込まないままに終わる。それが子どもの目から見た大人の世界だからとでも言うように。直木賞選考会でも、その母親の恋愛が描かれていないことについて論議は分かれたということで、もっともなことである。

道尾さんの持つシリアスな眼差しが作品を書き続けることで、さらに深化するならば、もっと大きな枠組みで葛藤する作品をぜひとも実現して欲しいと思うことであった。

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