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2010/10/01

加藤幸子著「<島>に戦争が来た」(新潮社、1680円)を読む

僕たちの島にも戦争がくるの? ある少年と少女の瑞々しい物語。
太平洋戦争末期、にわかに帝都防衛の拠点となった太平洋上の小さな島。強制的に連れてこられた朝鮮人の少年インスは、厳しい労働に従事しつつ脱出する機会を窺っていた。ある日、インスは島の少女キヨと出会う――。運命に翻弄されながらも結びついて行こうとする少年と少女を中心に、島という世界を丸ごと描き上げる鮮烈な長編。


加藤幸子さんは1936年北海道生れ。北海道大学卒業。1982年「野餓鬼のいた村」で新潮新人賞、1983年「夢の壁」で芥川賞、1991年『尾崎翠の感覚世界』で芸術選奨文部大臣賞、2002年『長江』で毎日芸術賞を受賞。他著に、『北京海棠の街』『翡翠色のメッセージ』『時の筏』『苺畑よ永遠に』『翼をもった女』『茉莉花の日々』『ジーンとともに』『池辺の棲家』『家のロマンス』などがある。
(新潮社HPより)


加藤幸子著「<島>に戦争が来た


本書のテーマを端的に示すのは<島で起こることは、みんなつながりあって来るものよ>という年老いたキヨが言う言葉だろう。この物語は有史以前からの火山活動やら気候変動やらはもちろん、第2次大戦下での朝鮮人強制徴用やら日本軍の塹壕建設、そこでの17歳の男女の出会いから、現在の島で生きる人々の思いをもそうしたテーマで結んでいると思われる。戦争から数十年へて地下のトンネルで生まれる一枚の写真の発見と奇跡まで、物語は早大な神話的空間をも眺望しつつ、現実の息づかいを鮮やかに拾ってみせる。

八丈島が流人の島であり、その地理的条件を含め、ある種の<異界>性を持っているのだろうが、この物語にはあらためて、八丈島に擬せられた南方の島のフォークロアのようなものを思い起こさせられる。それにしても、クリント・イーストウッドの硫黄島2部作で日米双方のまさに総力戦の姿を知らされたが、本土決戦の防衛拠点の島というものの奇妙な位置というものにある種の感慨を覚える。

物語は第2部は数奇な運命に翻弄されるが、第3部はその孫たちの世代が主役となって希望へと動き出す。そこに作者の最大の思いが込もっているように感じられた。

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