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2010/10/24

「百合祭」の札幌在住作家・桃谷方子さん、長編問題作「修羅婚」(講談社、1680円)で完全復活

綻びているのに、繕おうともしない。
沈滞しているのは、日常なのか、自分自身なのか。

もはやエロスと関わらない男と女が悲哀を分かち、ともに老いることは叶うのか。ままならぬ人の世を生きていく夫婦の生々しい痛みと、未来への絆。

「おまえ、俺のことなど、何も心配してないだろう」
「51歳にもなる大の男を心配しても、仕方がないでしょう」
敦郎の肩がわずかに隆起した。
「1歳違いじゃないか」
「私は、大人です」
「おばさんだろ」
「何が言いたいのよ、おじさん」――<本書より>(講談社BOOK倶楽部hpより)

桃谷方子(ももたに・ほうこ)さんは1955年札幌生まれ。「百合祭」で第33回北海道新聞文学賞を受賞。ほかに「恋人襲撃」「青空」「馬男」などの著書がある。

Syura


前作の「馬男」が2004年の発行であるから、実に6年ぶりの復活である。

この間、桃谷さんは持病の喘息に悩まされ、体調の不良に悩まされていた。そして、何よりも創作が進まなかったのは、体力的な後退を余儀なくされていながら本格的な長編小説を書き上げようとしていたことであり、連作短編的な場所から一歩踏み出そうとする生みの苦しみに直面していたと言っていい。その困難を乗り越えて、新たな世界を見事に切り開いた桃谷さんにおめでとうを言いたい。本作は読後に深く、大げさに言えば人生とは何か、という思いが残る傑作である。少子化が言われ、セックスレスが言われる現代において、本作は多くの問題提起をしていることがわかる。

本作は書き下ろしで274ページ。たぶん450枚程度の作品であるが、桃谷さんによれば、元原稿はさらに100枚以上あったとのことである。力の傾注ぶりがわかるというものだ。

Yurisai

Maotoko


物語は50歳の女性と51歳の男性が紡ぐ「修羅」のような夫婦生活の記録というところである。妻の美穂は持病の喘息に苦しめられ、夫の敦郎は失職してフリーペーパーのタウン紙発行を夢みているが、浮気癖が抜けないでいる。若いときは美穂の体調もあり、子どもをつくらないようにしていたが、いざ子どもつくろうとしたら、敦郎の精子が薄いことがわかり、セックスをしなくなっている。美穂には父親から虐待されていた記憶があり、そのことを見ぬふりをしていた母親を憎んでいる。浮気に走る夫のために、自宅には女からの嫌がらせの電話がかかってくる。人生に迷っている美穂の前に、利衣子という高校時代の同級生が現れ、同性愛の世界にも誘引されていく。塀の上を歩いているような夫婦に安寧の時は来るのか?

作品の中で、ひととき明るい陽だまりのような時間を与えているのは、札幌の創成川東地区で行われている秋祭りで、美穂と敦郎はフリーペーパーも発行できて、穏やかに散策している。

私も物語とは関係あるのかないのか分からないが、創成川東地区の秋祭りで桃谷さんと遭遇したことがある。日本酒の蔵元の千歳鶴の前の路上で、日向ぼっこをしながら一緒にお酒を飲んだことが思い出された。厳しい病気との戦いから回復しつつあるならば、お祝いのお酒を飲みたいことである。

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コメント

読みましたがなかなかいいです。私小説的なものと考えていいのでしょうか。

投稿: 小谷野敦 | 2010/12/05 11:21

小谷野敦さま

連絡が遅れましたが、コメントありがとうございます。

「修羅婚」は作者がどういうかはともかく私小説と思います。主人公のイメージは重なっておりますし、場面の幾つかは具体的に思い浮かべることができます。心理的な部分はかなり仮構しているのは当然でしょうが。ある種の際どさというかギリギリのところを追求して書ける作家だと思って期待しております。

この作品はあまり話題にはなっていないのが残念ですが、仰るようにとても良いものだと私は思います。

小谷野さんは評価されているのが大変心強く思いました。

ちなみに、偶然ですが、現在、貴著「現代文学論争」(筑摩選書)を読んでおります。まだ「事故のてんまつ」部分までですが、触発されるところ大です。読書感想は読み終わり次第、近日中にアップする予定です。

投稿: 席亭うど | 2010/12/09 13:22

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