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2010/09/30

小檜山博著「漂着」(柏艪舎、1600円)を読む

オビに曰く。<これは現代の百姓一揆だ><逃げた妻を捜してさまよう男の激怒。「出刃」から「光る女」を通り、35年をかけて完成した3部作、「漂着」完成。><いま、野性が現代を撃つ 日本人の運命を問う長編小説>。

小檜山博著「漂着」(柏艪舎)


月刊誌「農家の友」に2005年1月から2009年12月まで連載された作品に、加筆修正されたものである。

小檜山博さんは1937年生まれ。「出刃」で北方文芸賞、「光る女」で泉鏡花文学賞、北海道新聞文学賞、「光る大雪」で木山捷平文学賞を受賞している。

物語は北海道北部のマチ、滝ノ上から出てきた中年56歳の農業男、高松健三が札幌駅に到着し、札幌の街に歩み出すところから始まる。彼は妻の美江が男と逃げた後を追ってきたのである。安アパートを借り、三越前で妻に戻ってこい、と訴えているうちに、ひょんなことから百姓党の総支配とまつりあげられる。そして、日本の農業や食料自給などを気に留めない都会人やインテリと戦い始める。ドンキホーテのような言説と風貌は嘲笑の対象とされる。東京の国会議事堂の前で百姓一揆の旗を掲げるが容れられず、札幌に戻る。しかし、健三の農業立国論に耳を傾け始めた人たちに推され、ついに国政に打ってでる。熱い戦いの最中、健三は不慮の病に倒れる。危うし、百姓党。だが、彼の前に思いがけぬ人物がやってくる…。奇跡は起きるのか?

小檜山さんの代表作「出刃」や「光る女」と同じく、逃げた女性を追う野性を秘めた男が場違いな世界で活躍する物語である。ある種の寓話、神話的世界を現出させてみせた。

今回は農業を軽んずる風潮に怒り、ついに政治の世界に踏み出してしまう。妻を捜す健三の思いや人間性、焼鳥屋に集う庶民の交歓を描く前半から、政治的に突出し始める後半とで物語の印象は大いに変わってくる。


それにしても、小檜山さんの姿勢は変わらず、熱い。不思議なほどに熱い小説であった。

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コメント

はじめまして。
この度は、小檜山博著『漂着』をご紹介くださいましてありがとうございます! Twitterで紹介させていただきました。
10/16にNHKBSの「週刊ブックレビュー」でも紹介されます。よろしかったら、ご覧になってみてください。

投稿: 柏艪舎 可知佳恵 | 2010/10/01 11:14

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