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2010/08/28

佐藤泰志「佐藤泰志作品集」を読む

佐藤泰志著「佐藤泰志作品集」(クレイン、本体価格3300円)を読む。

Satoh

佐藤泰志原作の「海炭市叙景」が映画化され、近日試写会が予定されているということで、佐藤泰志の作品を一気に読み直す。佐藤泰志は1949年函館市生まれ。私よりも2歳年上である。1966、67年と高校生時代に2年連続で有島青少年文芸賞の優秀賞を獲得している。その後、作家となり、「きみの鳥はうたえる」「空の青み」「水晶の腕」「黄金の服」「オーバー・フェンス」で5度の芥川賞候補となり、「そこのみにて光輝く」で三島由紀夫賞候補となるが、いずれも受賞には至らなかった。20代後半から精神の不調に悩み、さらにアルコール依存などもあり、1990年10月、自ら命を絶った。41歳である。

「海炭市叙景」は故郷・函館をイメージした架空都市を舞台にした連作短編で、18編の物語からなる。さまざまな人間模様を切り取ってみせてくれる。以下にタイトルと私のメモを添える。

第1章「物語のはじまった崖」
1 まだ若い廃墟 -帰ってこない兄と21歳の妹
2 青い空の下の海 -連絡船で函館から首都へ戻る男20歳
3 この海岸に -砂嘴に戻ってきた男30歳
4 裂けた爪 -女運の悪いと思っているプロパン屋の若社長30歳
5 一滴の憧れ -先法志町から引っ越してきた少年14歳
6 夜の中の夜 -新装開店した訳ありのパチンコ屋の店員42歳
7 週末 -誇り高き市電運転士52歳
8 裸足 -怪しいスナックに来てしまった男22歳
9 ここにある半島 -墓地公園で働く女24歳

第2章「物語は何も語らず」
1 まっとうな男 -暴れ続ける職業訓練校生52歳
2 大事なこと -朝野球海炭市一番を夢見る男29歳
3 ネコを抱いた婆さん -産業道路ができようと変わらない老女70歳
4 夢みる力 -競馬場に通うサラリーマン35歳
5 昂ぶった夜 -すべてを見渡す空港ロビーの女18歳
6 黒い森 -妻の変化に咆哮する男49歳
7 衛生的生活 -商業安定所で今治水を塗る男49歳
8 この日曜日 -生協と大麻と熱がある24歳の夫婦
9 しずかな若者 -海炭市の父の残した別荘で過ごす男19歳

佐藤泰志の作品を読んでいてわかった。彼は社会を正確に見、そして描いていた。まさしく、切れば血が出るような皮膚感覚をもって。だが、80年代という時代はすべてが過剰に至る浮力が増していた。記号論的世界、あるいは差異の戯れる社会であったろう。たぶん、中上健次はおのれの出自である路地はあるいは神話的空間へ転移していっただろうし、ある種の終焉感覚で出来事を叙述する村上春樹的クリティークが静かな喝采を持って迎えられていった。佐藤泰志は愚直に境遇に地域に生きることに拘ろうとしていた。それは孤独な戦いであっただろうし、それはある種の宿命を引き受けるものであっただろうと思った。

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