« キタさんを送る会 | トップページ | 姫野カオルコ「リアル・シンデレラ」(光文社、本体価格1700円)を読む »

2010/07/11

中島京子著「小さいおうち」(文藝春秋、本体価格1581円)を読む

この夏の第143回直木賞候補作品を読むことになった。すでに乾ルカさんの「あの日にかえりたい」は候補作になる前に読んでいる。そんなわけで第2弾が中島京子著「小さいおうち」(文藝春秋、本体価格1581円)である。


「昭和初期、ある一家の忘れがたい、秘めた恋の物語 -女中奉公の記憶を綴るタキの胸に去来する、昭和の家庭風景と奥様の面影、切ない秘密。そして物語は意外な形で現代に繋がり……」(文春hpより)

Littlehouse


うーむ、とうなるうまさである。「女中」小説という分野があるのかどうか知らないが、抜群な構成力である。今風にいえば「家政婦は見た」の市原悦子さん主演の物語になってしまうのだろうが、伏線を張りながらの抑制の美学がすばらしい。昭和十年代までの日本の都会の中産階級の「家」の姿が浮かび上がってくる。先般、やはり直木賞(第141回)をとった北村薫さんの「鷺と雪」は確かベッキーさんという運転手さんが主人公であったと思うが、ちょっとその部分が重なっているのが直木賞的には微妙なところである。


さて、略歴は出版社勤務からフリーライターになった作家とだけ聞いていたが、今ほどウィキペディアを見て、いささか驚いた。「中島 京子(なかじま きょうこ、1964年 - )は、日本の小説家。東京女子大学文理学部史学科卒業。父はフランス文学者で中央大学名誉教授の中島昭和。母はフランス文学者で明治大学名誉教授の中島公子。エッセイストの中島さおりは姉。」とあるではないか。これではまるで文学者となるべくして生まれてきたような人である。個人的な意見を言うと、それは作家として受賞マイナスポイントである。政治家の2世とは違うという考え方もあるが、実際は同じようなものであるからだ。

「女中」のタキは物語の語り手であり、積極的に何かをなすわけではない。しかし、彼女の死後、残されたメモから恋愛事件に決定的な役割を果たしていたことがわかる。ちょっと中途半端に鬱積していたストーリーがそこで、ぐるっと大転換・大展開する。作者はそこのところが絶妙にうまい。

本来なら、直木賞であろうが、弱点は2つあると述べたとおりであり、それは案外、決定的である。

|
|

« キタさんを送る会 | トップページ | 姫野カオルコ「リアル・シンデレラ」(光文社、本体価格1700円)を読む »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87302/48852647

この記事へのトラックバック一覧です: 中島京子著「小さいおうち」(文藝春秋、本体価格1581円)を読む:

« キタさんを送る会 | トップページ | 姫野カオルコ「リアル・シンデレラ」(光文社、本体価格1700円)を読む »