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2010/06/18

乾ルカ「あの日にかえりたい」(実業之日本社)という奇跡の物語

乾ルカ著「あの日にかえりたい」(実業之日本社、1575円)を読む。

北海道を舞台に、時を超え「あの日」へ帰る人びとの、小さな奇跡と希望を描く、感動の傑作短編集!
施設で会った80歳の老人は、介護士の卵でボランティアにきた「わたし」だけには心を開いてくれた。彼の嘘のような失敗続きの半生記にただ聞き入る日々。あるとき老人が呟いたひとこと「あの日にかえりたい」の真意とは……!? 戦慄と感動の表題作ほか、いじめられっ子の家出少年と動物園の飼育員のひと夏の交流「真夜中の動物園」、地震に遭った少年が翌日体験した夢のような一日「翔る少年」、高校時代の仲間と15年ぶりの思わぬ再会を描く「へび玉」。落ち目のプロスキーヤーが人生最期の瞬間に見た幻「did not finish」、ハクモクレンの花の下で出会った老女の謎「夜、あるく」。北海道を舞台に、時の残酷さと優しさ、そして、時空を超えた小さな奇跡と一滴の希望を描く、感動の6篇です。(実業之日本社HPより)
Anohini

前作の「メグル」(東京創元社、1680円)で「越境する」奇跡の物語を紡いだ乾ルカさんが、今度は時間を超えるテーマを鮮明にした愛の物語をつくりあげた。6編の物語の舞台は作者の住む北海道であり、どこかに作者らしい人物の体験が基調として流れている。それは小さなマジックであり、大きな旅立の物語である。甘美なロマンチシズムに流れるのではなく、乱れていた髪を梳かしてきりりと前を見据えるような感覚に似ているものがある。

標題作の「あの日にかえりたい」が語りも含めて一番面白かった。「ソーナ」という謎の健康植物も小道具として見事に効いている。石橋老人の独特の口調、ボランティアの石橋さんとの不思議なめぐりあわせなど、人生っていうものの不条理と、それでいて人は人を支えているのだということに思いを新たにさせられる。

それから、最後にある「夜、あるく」か。一つの姉妹校の記念植樹の立て札が時間と空間を超えて、傷を負った人間の心に奇跡をもたらすのだ。

どの作品も、私が映像作家なら挑戦してみたいような世界観が露出していて、楽しかった。

前作「メグル」も素晴らしい。ブログでの紹介はこちら。
http://takaoudo.cocolog-nifty.com/takaoudoism/2010/03/post-5d7c.html

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