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2010/06/08

鹿島田真希「ゼロの王国」を読む

鹿島田真希著「ゼロの王国」(講談社、本体価格2800円)を読む。

講談社BOOK倶楽部のホームページによると、次の通りである。

デビュー10周年!三島賞&野間文芸新人賞作家の集大成
<聖なる愚か者>吉田青年を巡る奇妙な物語
めくるめく会話劇。馬鹿馬鹿しくも美しい精神のドラマ

第5回絲山賞受賞
「贔屓も遠慮もなく、今年いちばん面白かった!」――<絲山秋子氏>

書くこと。それは地味で過酷な作業だ。詩や小説など、創作的な作業はともかく、ただ、文字を書くという作業ならなおさらだ。われらの主人公、吉田青年はその作業を5年間続けていた。吉田青年がイベント会社の宛名書きのアルバイトを辞め、結婚式場の宛名書きのアルバイトを始めて、3年が過ぎていた。
田中女史は前述した出来事以来、吉田青年に交際を迫ることはなかった。そして、吉田青年になにも告げずに、社を去った。それから、吉田青年と田中女史は出会うことも、連絡を取り合うこともなかった。……
そこで我々は、吉田青年の新しい女性との出会いというものを紹介しなければならない。彼女は吉田青年よりも10も年下の女子大生で、名前を佐藤ユキといった。彼女は、薄幸そうな田中女史とは正反対の性格をしていて、まるで屈託のない、幸福に満ち溢れているといった第一印象を放っている女性だった。――<本書より>

以上。

Zerono

とにかくドストエフスキーの「白痴」に想を得て、無垢なる魂がいかに周囲の人々を混乱に巻き込んでいくかを描き出した力作である。なにしろ本文611ページに及ぶ。しかも。しかもである。「吉田青年を巡る奇妙な物語の数々は後を絶たない。その話は、いつかまた、話すことにしよう」という締めくくりで、早い話がまだまだ混乱が続くことを想像させて終わるのである。

それにしても、この吉田青年は北海道の出身である。「札幌はいいところですよ。大通公園だけではありません。そうだ。二条市場なんてどうでしょう。北海道の海産物の卸売市場にして、お土産街です。売っている者は、海産物だけではありません。お菓子も売っていますよ。トラピスト修道院のクッキーとか、白い恋人とかね。/二条市場には小さな食堂があるんです。うに丼といくら丼とトロサーモン丼が売っていて、どれも同じ値段です。うにとサケが同じ値段ですよ? 東京で考えられますか? それからうにの入った味噌汁があります。うにの入った味噌汁ですよ。東京で考えられますか? ねえ、ねえ、おばあさん。考えられますか?」みたいな会話が延々と続くのだ。誇張して言えば600ページも!

笑っていいのか、深刻に考えたらいいのか。困る作品である。個人的には、吉田カズヤ君のような友達は持ってはならないというような感想を持たされるのである。

ウェブの「本よみうり堂」http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090601bk13.htmの出版トピック記事を読んで、なるほどパワフルだと思ったことだ。

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