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2010/06/23

再録シリーズ「魔の刻 虚の場」4・魔法の時計

掌編第4話「魔法の時計」

 「君は時間にルーズだ。管理職失格だぞ」

 会社に着く早々、社長の雷が落ちた。私は「すいません」と謝ったが、悔しさでいっぱいだった。

 「叱られたのかい」

 買物公園でだれかの声がした。目をやると、見慣れぬ露店があった。店主はパンダのような顔をしている。

 「十五分遅れただけで、怒られまして」と私。

 「それは可哀想に。この魔法の時計をあげる。これをつければ、もう時間に遅れることはないよ」

 「本当ですか。信じますよ、ありがとう」

 私は藁にもすがる思いで、時計に手を伸ばした。お金を払おうとしたが、魔法使いのパンダは受け取らない。「使い方だけは間違えないでよ」と厳しく言った。

 その時計は、長針と短針、それに秒針だけのシンプルなデザインだ。

 私は「午後八時に帰宅するぞ」と、時計を見ながら思った。だが、いつもの癖で雑貨屋や古着屋などを冷やかしてしまった。時計を見たときは七時だったので、家に着いたのはとうに九時を過ぎているはずだった。

 ところが、である。時計を見ると、ぴったり午後八時だった。不思議なことがあるものだ。

 それからはすべての行動が時間どおりになった。時計を見て「正午までに仕事を終わるぞ」と思うと、どんなにたくさんの作業があってもきれいに片付く。「午後七時の汽車に乗る」「午後八時の音楽会」etc.。

 なんでもジャスト・オン・タイムだ。

 それならば、と私の中に怠惰の虫がうごめきだした。思いっきり寝てから、昼ごろに会社に行くことにしたのである。どんなに遅くても朝帰りでも、十二時間くらいは熟睡する。それでも「午前九時出社」と時計に念じれば、ちょうど午前九時に会社に着くのである。

 社長は「偉いぞ。最近は遅刻しないな」と呆れ顔半分で誉めてくれる。ふふふ、いい気分だ。

 そのうち、私は会社に行かなくなった。

 「私が行くまで、どうせ午前九時は来ないんだから」

 私は何日もぐうたらで過ごした。幾日たったかも忘れたころ、そろそろ会社に行ってやろうかと思った。

 「九時に会社」。そう念じて家を出た。だが、いつまで経っても会社に着かないのだ。歩いても歩いても着かない。ついに苦しくて泡を吹いて倒れた。欲望の赴くまま使い方を間違えたから、天罰が落ちたに違いない!

 自分を悔いながら、かすむ眼で時計を見た。バンドに「使用上の注意」の小さい文字。くそっ!

 「電池が切れれば止まります。 魔法の時計」

                           (第4話・了)

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