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2010/03/23

辻原登「抱擁」

辻原登著「抱擁」(新潮社、1470円)を読む。

辻原登「抱擁」


2009年に書かれた小説の中で最も評価の高い作品の一つである。だが、わずか150枚程度の中編であり、一気に読めてしまう。しかしながら、それからが大変なのだ。

なんでか?混乱するからである。今読んでたのは何の物語だっけ?私は誰、ここはどこ?主人公の悲鳴が反響し始めるのである。

試みに新潮社サイトから写真をダウンロードするついでに携帯で書評の幾つかを斜め読みしたが、まともな分析はほとんどなかった。非難しているのではなく、それほど面妖な小説だということである。

本書は暗い時代が足音を響かせるのをよそに夢のようなお屋敷に映し出された怪談話である。私たちは物語を小間使の言葉を通して聞かされるのだが、それは藪の中の一つのスクリーンでしかない。その落ち着きの悪さが私たちを不安にするのだ。映画「シックス・センス」で驚いた視点の転換で真相は変わってくる。今はなきもう一人の小間使なら何を語るか。

最後に飛躍した言い方をすれば、本書は愛と憎しみの物語である。一つの心の裏表であると同時に暗い時代の集団心理、すなわち共同幻想の一断面に思える。それは何ものかによって自分が壊れていく「恐怖」である。その導き手は無垢な顔をしているに違いないのだ。それは終わりのない物語の始まりかもしれない。

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