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2010/01/10

桜木紫乃「凍原」(小学館、1575円)を読む

17年前、弟を湿原に奪われた松崎比呂は刑事となって札幌から釧路に帰ってきた。その直後、釧路湿原で他殺死体が発見される。捜査を進めるうち、比呂は65年の時を経て消えない“眼”の因縁に巻き込まれてゆく。

湿地に足を取られて死んだ者は、土に還ることも出来ず、永遠に水の中を彷徨っている。釧路湿原で発見されたサラリーマンの他殺死体。被害者が開けてしまったのは、64年も前に封印されたパンドラの箱だった。 (以上、アマゾンコムより)

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桜木紫乃さんの「氷平線」「風葬」に次ぐ単行本である。デビュー作が北国に生きる人間たちの一種の市井人情ドラマであったのに対して、「風葬」からはミステリー色を強めており、本作も封印された個人の歴史的過去に遡っていく。

物語としては釧路湿原の不思議な浮遊感や樺太引き揚げ者の苦難、さらにはススキノをはじめとした北海道各地に舞台を広げている。作家のたどってきた人生の一こまも浮かぶような気もしたのは考え過ぎか。

さて、物語のベースは家族である。人はいかにして他者と生きるのか。人生に染め直しや生き直しができるものなのかどうか。その孤独が読後にズシリと響いてくる。

ミステリーにおいては映画にもなった森村誠一の「人間の証明」ではないが、母捜しが事件を生む。悲しいのは犠牲者のようであるが、本当は容疑者のほうでもある。本作もその基本線は変わっていない。

登場人物に思い入れをするとすれば、片桐周平刑事である。重層的に織られた湿原をめぐる事件で、すべてを知ってしまった中年男に、できれば可愛い愛の手を差し伸べてほしかった。相棒の比呂は若い男にはまっているようだし。シリーズ化し次回作で片桐が活躍するならば、ぜひ幸せのにおいをかがせてやってほしいと、孤独を背負っている一読者としては切実に思ったことだ。なんちゃって。

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