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2010/01/22

喜多由布子「凍裂」(講談社、1575円)を読む

決して表面化しない私たちの罪(モラル・ハラスメント)を白日の下にさらす、衝撃書き下ろし 

貞淑な妻が、善良な夫を刺した。
父が母に、息子が嫁に、義兄が姉に……。相反する周囲の想いが、家族の真実を浮かび上がらせる。

家族を愛するすべての女性たちへ。
美人料理研究家・水原睦子(50歳)が、義父の通夜の後、夫・勝一(57歳)を包丁で刺し殺そうとした。ショッキングなニュースが社会面を賑わせる。睦子を知る人物は首を傾げるが、彼女は容疑を認めている。いったい水原家に何が起きていたのか。渡辺淳一氏も注目の女流作家が、根深く広がる問題「モラル・ハラスメント」をテーマにすえた、社会派家族小説。(以上、講談社HPより)

Touretu

私がファンである桜木紫乃さんが「恋肌」を出したかと思ったら、同じくファンである喜多由布子さんが「凍裂」を出した。女性作家たちの活躍がすさまじい。桜木紫乃さんも「凍原」という作品を書いているので、道産子作家は「凍」という言葉に縁があるようだ。

喜多さんの本作は社会派小説である。多視点から、ある恵まれている夫婦に起きた傷害事件の深層に迫る物語である。いわば、単純な事件の背後にある現代社会の病巣を浮かび上がらせる意欲作と言える。

喜多さんの新しい挑戦ともいうべき本作の読後感は結構、せつないものがある。幸せというものは簡単ではない。小説を読んでいて、ふと伊藤整のことを思い出した。彼は人間のエゴを見つめた作家であった。エゴとエゴがぶつかりあう現代社会をどうやって生き抜くのかを考えた作家であった。

喜多由布子さんの挑戦がさらに深化すると面白いと思った。作品では「モラル・ハラスメント」というキーワードを通じて、夫の持つある種の残酷さを描いて見せたが、個人的には夫が抱えてしまった精神の闇にさらに踏み込むことでもっと人間と社会の容易ならざる全貌が浮かび上がってくるようにも覚えた。

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