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2010/01/10

桜木紫乃「恋肌」(角川書店、1575円)を読む

30歳まで女を抱いたことがない牧場の一人息子・秀一は30歳で花海(ホアハイ)を嫁として迎え入れるが……。がんじがらめの人間関係の中で営まれる男女の性愛を鮮烈に描く。

三十歳まで女を抱いたことがない牧場の一人息子・秀一が、日本語を話せない中国の娘を嫁に迎え入れる表題作「恋肌」ほか五編を収録。がんじがらめの人間関係、息をひそめるように繰り返される男女の性愛。“新官能派”作家の傑作集。 (角川書店HP、アマゾンコムより)

Koihada

ミステリー路線の単行本が続いていた桜木紫乃さんの「氷平線」につながる北海道を舞台にした人間ドラマ。帯には「“新官能派”の才能全開!! 本年度イチ押し作家の傑作集」とあり、裏には「池上冬樹氏絶賛!!」ともある。

収録作は表題の「恋肌」のほか「海へ」「プリズム」「フィナーレ」「絹日和」「根無草」で最後の2作を除き角川の「野性時代」に掲載された。

登場人物はいずれも孤独を抱えている男女ばかりである。そこに性愛を絡めているのが「新官能派」といわれる所以か。地方性なんて小説には必要ないという考え方もあるかもしれないが、この作家においては北海道という土地がしっかりと登場人物の内面に刻印されているのが優れたところだ。

表題作の「恋肌」は国籍に関係なく本当は男も女も簡単にはわかり合えない。そこのところで現代的な象徴(嫁の来ない農村青年と中国人妻)を布置して、人間関係の構築を鮮やかに切り取ってみせている。

好きな作品を挙げれば、まず「フィナーレ」。風俗雑誌の新米ライターとストリッパーの出会いと別れ。人間の心の奥の陰影が浮かび、せつなくもちょっと悲しく、それでいて、なんだか頑張って生きているんだ、といううれしさも感じられた。そこがとっても良かった。ネガティブなものが苦手なんで、「プリズム」のどんどん墜ちていく世界はきつかった。

もう一つは「根無草」か。別れた亭主の子どもを身ごもってしまった女性記者(名前がうーんであるが)。そこに昔、家族で知り合いだった浮き草のようなブローカー男が彼女の書いた署名記事を見て訪ねてくる。男は生きていく知恵を教えてくれた恩人でもあるが、自分の母と一度だけ関係を持っており、訪ねてきたのは父から借金をする心積もりあってのことだった。そこで両親は死んだのだと嘘をついてしまう。それからまもなく、シングルマザーとして生きていこうと決意した彼女の前に、見知らぬ人間がやってきて、男にからむ意外なことを告げる……。みんなババを引いてきたような人生だけど、でも捨てたもんじゃない。そんな勇気が舞い降りる。

ミステリー系と官能世話物系の2つの流れで、桜木紫乃さんは文学世界を広げているのがよくわかる。さらに書き進めることで、より視界が広がることだろう。

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