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2009/03/24

小説を書きませんか、たって

1年ほど前の話である。

大先輩のOさん。礼儀正しく温和で親切だ。

 「どぅお、体の具合は?元気にしているかい?」

そんな優しい言葉、最近ついぞ聞いていない。ありがたや。「やはり、冬場は風邪気味で苦労しました。ぐしゅん」なんて甘えたい気分になる。だが、次の瞬間わが耳を疑った。

 「今度、文集を作ることになっちゃって。50枚ほど小説を書いてください。五月まででいいよ」

いいよ、たって。

 「大丈夫、たまには君の小説を読んでみたいという声もあって」

全然大丈夫じゃない。

雑文書きは本業兼趣味。だが、小説執筆など遠い空の向こうの世界だ。

だいたい小説を書く人は特別と思っている。昔の私小説家は仕事を失い、妻には逃げられ、愛人との自殺は失敗、陋巷をさまよう。ぶざまな姿を文章にするのだから普通じゃない。

小樽出身の文学理論家、伊藤整は「逃亡奴隷と仮面紳士」と、私小説家を評した。作家は自由を得ようとしながら、現世の壁に激突し、もがいているのだ。

こちら小市民に満足の日々。とても、そんな根性ありません。無理無理。

 「でも、作家だよ…」と悪魔のささやき。確かに、「作家」は魅力的な言葉である。でも、どうすれば、作家になれるのか。政治から文学に転進した大衆作家のKさんは言う。

 「ペンと紙さえあればいい。あとは時間と根気」

それで、小説が書ければ苦労はないぞ。

それから、1年。

結局、50枚の原稿は書いたものの、内容に自信なしで、ボツとなった。

 「また、やるかい」

悪魔のささやきが時々聞こえる。どんなものか。

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コメント

ここにもファンはいますよ。
根気よく待ってますので、悪魔のささやきにのっちゃってください。

投稿: クロエ | 2009/03/25 20:27

野球解説者が選手のようにプレーできないように、文芸評論家や編集者がいざ小説を書くとなると、はしにも棒にもかからなくなるのは良くあること。安原顕なんかその典型でしょうか。道遠しではあります。

投稿: 席亭うど | 2009/03/26 09:35

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