ラスト、コーション
アン・リー監督。トニー・レオン。タン・ウェイ。ワン・リーホン。ジョアン・チェン。
「アイス・ストーム」「グリーン・デスティニー」「ブロークバック・マウンテン」のアン・リー監督の問題作だ。
1942年、日本軍占領下の上海。日本の傀儡とされる・汪兆銘政権の特務機関のトップであるイーは、香港で出会ったマイ夫人(ワン)と再会を果たした。だが、ワンが香港でイーに近づいたのは、抗日に燃える演劇仲間たちとともに、イーを暗殺しようと狙っていたためだった。再会はイー暗殺計画の再発動にほかならなかった。今度は学生ではなく、反日の国民党機関が関与していた。ワンはイーの家に身を寄せたが、ワンの美しさに心を奪われたイーは燃え上がる情熱をぶつけ始める。あくまでも、イーをスパイするはずのワンだったが、心は次第に揺れ始める……。禁断の愛の行方には残酷な結末が待っている。
実質的に二番館扱いでの上映を見ました。わずか60席の狭い場内は最前列を除いて、びっちり埋まっています。年配のおじいさん系が多いのはエロス映画をやっているときのマリオン劇場に似ています。やはり評判のセックス描写への関心が高いのか。もっとも、ワシも人のことは言えないが。先に見た人によれば「トニーとタンはきっと本番をやっていますよ」というが、ワシは経験が少ないので判断はつかない。でも、体位というのかアクロバティックな熱演が、役名どおり「イー」「ワン」という感じを与えていることも確かだ。もっとも、狭い劇場内では笑ったり突っ込みを入れることも不自由ですし、体をだらだら揺することも難しい。2時間半を超える大作を、直立不動モードで見ることは結構、つらかった。
「ラスト、コーション」。意味わかりません「最終、警告」みたいな感じではないかと思いました。しかし、漢字では「色、戒」と書いてあります。アルファベットを見ると、「lust caution」とある。ありゃ、last=最後じゃないんだ。字引を見ると「過度の性欲、肉欲」「警告、注意」となりますね。イーは親日派が劣勢になる中でだれも信用できないという不安を心の底に抱いているので、快楽に走るのはわからないわけではありません。これに対し、ワンは暗殺のための道具という自覚の上で愛人を務めているわけですが、決意に反して体は愛欲におぼれていきます。それというのも、イーの死を意識した激烈なセックスがワンを見せかけの愛情レベルにはとどめず、愛の嵐の中に巻き込んで翻弄してしまうのです。セックスの力はすごい。ワンの最後の行動をバカと言うべきなのかどうか、わかりませんが。
(追記:last caution と勘違いしていた自分としては、ラストの3つ。イーを助けるワンのひとこと、銃殺される直前のワンとレジスタンス青年クァンの視線の絡まり、すべてが崩壊していくことを予感しているイーの表情。その3つのラストに要注意=コーションという気もしますね)
傑作の声を多数聞きますが、ワシ的には「ブロークバック・マウンテン」のほうが衝撃的でしたよ。
この映画の背景にあるのは「汪兆銘・傀儡政権」です。この人物が持つ歴史的な位置づけは中国国民党・中国共産党の双方から「日本の犬」となるようで、彼にはもう少しインターナショナルな視点もあったのだと思いますが、人民の意識とは乖離していたことはよくわかります。彼を利用した日本軍国主義は、名画の上演中に割り込み宣伝ニュースの中で東条英機がアジテーションし、アジアをアジア人の手にと、<アジア解放>を叫びますが、住民にはそっぽを向かれます。また、お座敷でのんびり三味線で芸者が歌い踊っているのを聞き、傀儡の手先であるイーですら、「アメリカが参戦し、日本が負けてしまうのに、まだ調子はずれの歌を歌っている」と嘆きます。日本人の一人として、こうした姿はなんとも心痛いものがあります。侵略なんて、やったっていいことありません。
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