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2008/02/27

川上未映子「乳と卵」2

第138回芥川賞受賞記念の単行本「乳と卵」には「文学界」2008年3月号掲載小説「あなたたちの恋愛は瀕死」も収載されている。いわば、芥川賞受賞後の第1作ということだろう。わずか24ページの短編を読んだ素直な感想を言わせてもらうと、「なんじゃ、こりゃあ」というレベルのものである。

物語は新宿で、まったく無関係の女と男が一瞬出会うが、結局は悲惨な結果に終わってしまうまでの心象風景を乾いた文章で描いている。ただ、失敗作の文体はつらい。

「女はまったく知らない男と出会って、そのままいい感じで性交をしてみる、ということに関しては実は毎晩のように想像を重ねて、それがいったいどういうものなのかということを想像してはその想像が果たしてうまくいっているのか、それとも途方もなく馬鹿げたことになっているのかの境目が決してわからないので、それなりに苦しい夜を過ごすのだった」

「男はティッシュを受け取らない女のぼんやりした反応と、ありがとうなどというまるっこい響きがこの場所でもつ意味が理解できないので少しだけいらつき、取るのか取らないのだ、何度もすばやく空気を切るようにティッシュを女の目の前にさし出しても女はぼんやりして、それを受け取ろうとはしなかったので、なんだこの女、と男はさらにいらっとした」

こうした内面を組み込んだ文章が続くが、その乾いた印象はいかにもつくりもののデッサンみたいで、うそくさい。「性交を夢みる女」と「ティッシュを配る自分の姿にいらつき続ける男」の出会いがハッピーに終わるはずがない。その点描が読む者を落ち着かせない。なんだか不安と緊張の読後感をもたらす。

正直に言わせてもらえば、「乳と卵」では成功したぬめぬめ文体は早くも破綻の兆しを見せているように思われる。純文学の方向に進めば、なんだかどうしょうもなく独善的だ。うわさによると、ミュージシャンの彼女はほとんど売れなかったと聞く。その理由がわかるような文章だ。これでは、どこにでもいる(私たちのような)へたっぴー純文学派の自己表出の迷宮に紛れ込んだも同然だ。彼女は大衆小説家としてしか、針路をみいだせないじゃないか、とあらためて思った。

川上未映子さん、樋口一葉だのなんやらの褒め殺しと、芥川賞など忘れるのが一番。もっとえげつなく、もっと心を大切に! 自分の宿命に素直に! 時代をなめ尽くせ!どうせ聞こえないだろうけど、言うべきことは言っておこう。

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