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2008/02/27

川上未映子「乳と卵」

川上未映子「父と卵」
ひどく疲れている。いつもらったのかもさだかでない泡盛を水割りで飲んだら、倒れてしまった。体がぼろぼろだ。いつか、死ぬぞ。そんなことを思っているうちに眠りに落ちた。1時間半くらい寝たところで目が覚めた。体が熱い。仕方がないので、本を読む。

川上未映子「乳と卵」。文藝春秋刊、本体価格1143円。

第138回芥川賞受賞作だ。本屋には平積みされている。おまけに新聞や雑誌広告には、ほおづえポーズでパンツ丸見えそうな写真(それは期待値で、実際はミニスカートでなんだか訳ありのポーズをしているだけだけど)。そんなふうに、なんだかものすいごい売り出され方で、メジャーデビューした作者って、なんなんだろう。これは文学じゃなく、音楽っつうかミュージシャン系のプロモーションじゃんと思ってしまう。いやはや。

1976年大阪府生まれ。歌手らしい。「夢みる機械」「頭の中と世界の結婚」などのアルバムを出しているらしい。もちろん、知らん。随筆集「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」。タイトルで圧勝だわ。初めての中編小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が第137回芥川賞候補になる。2008年1月に本作は第138回同賞受賞だ。

物語は大阪から東京に妹の夏子のところに姉で母の巻子、娘の緑子がやってくる。巻子は豊胸手術をするのだという。緑子は言葉をしゃべることを拒んでおり、ノートで筆談をしている。妹は下町・三ノ輪のアパートでぼちぼちと暮らしている。そんな3人の夏の3日間の人生模様だ。

なによりも大阪弁をたんのうできますねん。作者は若いが大阪のおばちゃんの語り口が饒舌に展開するんだす。そりゃあんたな、考えてもみなはれ、大阪弁だすよ、一を聞いたら十を返すかなんぼか知らんけど、とまりませんわ。しかも、女ですよ、それが3人も。女3人かしましゅう。暑苦しゅうならんほうがどないかしてまっせ。みな、不幸なんですよ。いや、それは紋切り型言うもんかもしれまへん。人生をなんちゅうか、ねめまわすというのか。いい根性(ガッツ石松)してまっせ。

「胸おおきくしたいわあ、とある女の子が云って、わたしじゃなくてそこにはもうひとり別の女の子がおって、その女の子がそれに対してネガティブな物言いをしたんやった、え、でもそれってさ、結局男のために大きくしたいっていうそういうことなんじゃないの、とかなんとか。男を楽しませるために自分の体を改造するのは違うよね的なことを冷っとした口調で云ったのだったかして、すると胸大きくしたい女の子は、そういうことじゃなくて胸は自分の胸なんだし、男は関係なしに胸ってこの自分の体についているわけでこれは自分自身の問題なのよね、もちろん体に異物を入れることはちゃんと考えなきゃいけないとは思うけれど、とかなんとか答えて、………」

野坂昭如って、昔、こんな感じじゃなかったけ。つまり、ねめねめ。言語の理論的に言うと、これは<話体>ですね。この文体の特徴は限りなく指示表出の世界に流れていくわけ。いわば大衆小説の文章です。つまり感性ではなく、物性の方向、地べたをはっていくわけです。これが、幾分か昇華した感じを与えるのが作者の表現力というものでしょう。私的には、この作者はしばらく純文学しますが、この文体のほうが圧倒的になじみやすいとすれば、ストーリーテリングの大衆小説、直木賞の世界へ移行するのではないかと思います。場末の人情話なんかきっと面白いですよ、きっと。

物語の最後。3人バラバラなのに、ある出来事をきっかけに心が通じ合います。でもその前に作者は次のように書くのです。

「ああ、巻子も緑子もいま現在、言葉が足りん、ほいでこれをここで見てるわたしにも言葉が足りん、云えることが何もない、そして台所が暗い、そして生ゴミの臭いもする、などを思い、緑子の緊張した様子を見ながらに、しかしこんなこと、………」

言葉が足りん!よう言うわ。でも、この後、緑子にスイッチが入り、母子は雪崩を打って大合戦を繰り広げます。いろんなものが過剰に溢れ溢れ溢れ。

ちちとらん。これはおっぱいのことを考えているお母さんと、初潮を迎え卵子と受精のことを考えている子ども(娘)の和解の物語です。不幸だけれど、すべてをさらしたらもっともっと強く生きられるかもしらへん。そんな気がしました。

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» 乳と卵  川上未映子 [カイゾーのブログ]
 本作はチチトランと読むらしい。間違ってもチチトタマゴとは読まないでくださいとのことだが、むしろ読者が牛乳と卵を連想することを狙った感さえあるように思われる。  さて、その内容であるが、母の豊胸手術とその子供の生理についての葛藤やら倫理観やら違和感などなどがひたすら語られる。私の想像力が稚拙なのか、いまひとつその切実さ、真剣さが伝わってこない。  この子供である緑子は母に口でしゃべることをせずに、自分の意思をひたすらノートに綴る。しかし特にしゃべれないわけでもなさそうだ。そんな状況って親子として... [続きを読む]

受信: 2008/03/14 13:17

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