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2008/02/24

わたしを離さないで

わたしを離さないで
カズオ・イシグロ著。土屋政雄訳。早川書房、本体価格1800円。

柴田元幸氏の解説が帯に付されている。「著者のどの作品をも超えた鬼気迫る凄味をこの小説は獲得している。現時点での、イシグロの最高傑作だと思う」。

毎日新聞2006年7月2日の書評で若島正はこの作品が「わたしたち読者をしっかりとつかまえて離さない」と言い、「あらかじめ決められた運命を背負わされながらも、その運命に抵抗しようと必死にもがく(中略)きわめて『人間的』な物語なのだ 」と評価している。

この物語が「人間的」というのは的確な指摘だ。

主人公のキャシー・Hは介護人だ。「提供者」と呼ばれる人々を11年以上も世話している。介護人は機械ではないから疲れてしまうということを知っている。彼女はヘールシャムという施設の出身で、扱っている提供者たちも同じだ。親友のルースとトミーもいた。だが、みんなもういない。ヘールシャム出身者とは何か。
「あなた方は教わっているようで、実は教わっていません。それが問題です。(中略)あなた方は誰もアメリカには行きません。映画スターにもなりません。先日、誰かがスーパーで働きたいと言っていましたが、スーパーで働くこともありません。あなた方の人生はもう決まっています」

そんな運命にいる者たちの物語だから。
最終的に種明かしを知れば、その決められた運命に驚くことはない。その意味で、誰もが言うように、非常に高ぶることのない抑制された文体が貫かれているのが作者のすごいところだろう。物語の全体よりも、部分に着目すれば。これは子どもたちの物語だ。自由でありたいと思いながら、ついに<管理>され<教育>されている存在。そして、まったくありもしない未来を夢見、なによりもさまざまな<可能性>を簒奪されていく魂。「かわいそうな子たち」は果たしてヘールシャムだけの世界だと誰が言えようか。

「ネバーレットミーゴー、ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで」というジュディ・ブリッジウォーターの「夜に聞く歌」。そこに11歳のキャシー・Hは「死ぬほど赤ちゃんが欲しいのに」産めない女性に奇蹟が起き赤ちゃんが生まれたものの、一抹の不安を抱いている姿を歌ったものと感じている。なんという比喩だろうか。

本書はずいぶん前にいただいた。読まないでいたのは不覚であるが、良い本にめぐり逢うのに遅すぎるということはない、ということで許していただこう。

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