2012年1月17日(火)第146回芥川賞・直木賞 選考状況<メモ>
◆発表:東京・築地の料亭「新喜楽」
【第146回直木賞について】
受賞作:葉室麟『蜩ノ記』
選考経過報告:浅田次郎 委員
◎すんなり決まりました。
桜木さんの「ラブレス」と葉室さんの2作品になり、決選投票で葉室さんが満票を獲得して決まりました。
これまでも候補になっていましたが今回は善戦しており「少し足りない」と言われていた部分を改めてあってこれまでにない完成度に仕上がっている。
デッサン力があり目配り、気配りが行き届いており安心して読める時代小説。
私(浅田)がこれまでいちばんけなしてきたのだが、
このように勉強して改めてくるのは小説家として頭が下がる。
小説家かくあるべしというお手本のような作品。
葉室さんは健筆でたくさん書かれる実力があるのでこれからも活躍されるでしょう。
円熟と言ってもいい。
今まではわざとらしい部分もあったが今回はこなれていた。
主人公に(余命)10年という期限を切って追い詰めていく。
そこにご自分の得意分野である季節の移り変わりなどの情景描写を絡めていく。
私(浅田)と葉室さんは同い年なんです。
還暦なんです。(作品が)実に大人向け。別に定年向けっていう意味じゃないですよ(笑)。
たとえばあと10年で何ができるかなあ、と考えます。
もうすぐみなさんもひしひしと分かります(笑)。
こういう作品にめぐりあえて嬉しい。
◎恩田陸さん(『夢違』)に関してはファンもたくさんいるが
これまでの作品からすると、この作品で受賞はどうかな?と。
しかし、天性のアイディアは余人をもってかえがたい。
すばらしい才能。私(浅田)もファンです。
本屋で買って読むんです(笑)
◎真山さん(『コラプティオ』)はこれは文学賞(の対象)かな?と。
【第146回芥川賞について】
受賞作:田中慎弥『共喰い』
受賞作:円城塔『道化師の蝶』
選考経過報告:黒井千次 委員
◎先に田中さんが過半数になり決まりました。
次に円城さんですが最初は過半数にいかなかった。
何回か投票し最終的に過半数になったので2作になりました。
『共喰い』はどちらかというと古いタイプの作品。
『道化師』はメタフィクションというか、普通に筋があって…というのではなくて全体的に難しい。
私は積極的に賛成ではなかったが、最終的に4.5点になったのでこの2作にしようということになった。
『共喰い』はどこかの町で、2人の女性と関係している父親が出てきて、主人公が男子高校生で…(略)
円城さんは普通の、ストーリーがあったり、おもしろかったりおもしろくなかったり、
というようなものではなく。メタ小説、メタフィジックな小説ということ。
(この作品自体が)一種のフィクション論ではないか。
サイエンスの論議というか論証というか理屈というか。
不思議なことばかり起こるが、全体としてうまく構築しているのかどうかは僕にはわかりませんでした。
これまでの小説とはちょっと違うのではないか、新しさのおもしろさが評価された。

<写真は素晴らしいインターネット中継をした「ニコニコ生放送」から、田中慎弥さんの会見を転載しました>
【第146回芥川賞について】
質問:なぜ田中さん1作にしなかったのですか?なぜ円城さんとの2作にしたのですか?
答え:最初(村上龍選考委員が休みだったので)8人で4.0点になった。
ちょうど「半数」だけど「過半」ではなかった。
でも過去にも「半数」だけど受賞した作品もある」ということなどもあり4度目の投票で4.5になった。
質問:安部公房さん以来、川上弘美さんのような理系作家、そういう視点を評価するということもありましたか?
答え:そういうことではなくて。小説として。
「2作にするかどうか」という議論はしなかった。結果的に。
(難しくてよくわからないので)責任をもって推せないという意味で賛成できないという委員はいた。
全然ダメという委員もいた。
古いもののもっている優れたものを超えないと。新しさだけではだめ。
「古くて優れているものと、新しくて弱いもの」の二つだったら、
「古くて優れたもの」を芥川賞としてはとりたい。
質問:黒井委員は今回が最後ですが、変わらないものと変わるもの、とは。
答え:私は50回、25年、皆勤で担当させていただいた。最初は村田喜代子さんの『鍋の中』でした。
毎回、5~6作品が候補になるが、それを最初にざっと読んだとき、
時代の空気の反映があったのではないかと思う。
作品の中身に関してはやたらとゲーム感覚のものが増えたなと顕著に感じた時期もある。
「共通の基準がなくなるんじゃないか」と思ったこともある。
(古い作品を選ぶ基準と、新しい作品を選ぶ基準と、)2つ必要なのか?と悩んだこともありました。
選考委員は候補作の作者よりも年上ですね。
「古い人たちが新しいもの、作品にどう接するか」ということが芥川賞が持っている課題の一つじゃないかと思う。
質問:SF畑の人が受賞することについては?
答え:前回の「これはペンです」は、これはちょっと…と思ったが…。
この作品がSFであるとするならですけどね、ある文学的なレベルに達していれば、文学性を維持していれば、全く同列にしてもいいんじゃないか。
しかしまあ…こういうものが理解されるのはもう少し先なのかなあと。
◇◆
黒井委員退場。
「私、もう芥川賞選考委員じゃありませんので」と手を振る。
記者室、拍手で見送る。
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